EX2.2-あの日の切望-2

 

 

 

 

 

「ああっ!!」

「!?な、なんスか急に!?」

「ずっと研究室に籠もりっぱなしで失念していました……もうすぐ年末です!」

「あ、ああ~!なんか全然実感湧かないっスけど……」

「そういえば、そうだったね」

 

惑星ウォパルに設けられた、広大な研究施設の一室。シルファナの突然の叫びに、ルイス、ノエルもはっとした。しかし、滅多に外には出ないこと、そして研究記録としての年月日ばかり意識していたために、年末と言われてもしっくりこなかった。

 

「ねんまつ……」

 

シルファナのそばにいたヴィエンタが、俯きながらぼそっと呟いた。

 

「?ヴィエンタもやっぱり忘れてましたよね……」

「ん……うん……」

 

何故か曖昧な返事をするヴィエンタを、シルファナは心配そうに見下ろす。ルイスとノエルも、2人の様子を不思議そうに見守っていた。

 

「ヴィエンタちゃん、なんかあったんスかね……?」

「さあ……」

 

暫しの静寂。それを破ったのは、ヴィエンタの嗚咽だった。

 

「う、ううっ……」

「ヴィエンタ!?わ、私、何か変なこと言いましたか……!?」

「ちがう……ちがうの……シルファナは、わるく、ない……」

「??……」

 

何故泣きだしてしまったのか分からないまま、シルファナはヴィエンタの背を撫でた。ルイスとノエルも思わず駆け寄る。

 

「ど、どしたんスか急に……!?」

「……もしかして」

 

ヴィエンタが感情をあらわにするとしたら、メイという少女とその家族のこと……ひょっとしたら、彼女たちと過ごした「年末」が思い起こされたのかもしれない。そう思いはしたが、あまり触れない方が良いだろうと、言葉を噤んだ。

 

「ノエルさん?もしかしてって何スか??」

「別に」

「教えてくれたって良いじゃないっスかー!!」

「ルイスうるさい」

 

さらっとあしらわれ、肩を落とすルイス。2人のいつも通りの様子が耳に入って少し落ち着いたのか、ヴィエンタが涙をぐしゃぐしゃと拭きながら顔を上げた。

 

「ごめん……」

「大丈夫ですよ。でも、何か心配事があるのなら遠慮なく話してくださいね」

「うん……。……」

 

ヴィエンタはしばらく迷った末に、一家と過ごした年末の思い出を語った。……その時に願ったことも。

 

「いちねん、じゃなくて、このさきも……ずっとみんなで、しあわせでいられますようにって……。でも、でも……!」

 

その先は、言わずとも分かる。また泣きだしてしまったヴィエンタを、シルファナはぎゅっと抱き締めた。ルイスも頭を撫でてやり、ノエルは複雑な表情でヴィエンタを見つめていた。

 

「それで、ねんまつは、シルファナたちも……あいさつして、おねがいするのかな、って……。……」

 

まだ何かを言いたげだが、その先をどうしても紡げずに、シルファナの腕の中で震えていた。シルファナはヴィエンタの意をなんとなく察した。

 

「もしまた願いが叶わなかったら……そう、考えているのですか?」

「っ……!」

 

図星。ヴィエンタはひときわ大きく肩を震わせてから、シルファナをより強く抱き締めた。

ヴィエンタの真意を知ると、ルイスとノエルは顔を見合わせ、苦笑いした。

 

「気持ちは分かるっていうか、そう思いたくなるかもっスけど……」

「そんなふうに思っていたら、本当にそうなってしまうかもしれない」

「そそ!それにこの先のことなんて分かんねっスし、分かんないなら良いように願った方がいいと思うっスよ!」

 

2人に続いて、シルファナもヴィエンタに語り掛けた。

 

「心配しなくても、この研究が成功するまで……いいえ、成功した後だって、皆一緒です。それに、ご家族とまた幸せに過ごすために、この研究に加わってくれたのでしょう?願いを叶えるために、ね?」

「……!」

「だから、もし叶わなかったらじゃなくて、叶えましょう。必ず。皆で」

 

シルファナは優しく微笑んだ。ルイスとノエルも、ヴィエンタに強く頷いてみせた。

 

「……わかった。もう、かなわなかったら、なんて、かんがえない。ぜったいに、かなえるんだ……!」

 

3人の想いに、ヴィエンタも応え、頷いた。

そして。

 

「それじゃあ、研究絶対成功させるっス!!っていう願いを込めて、年末はみんなで挨拶っスね!」

「はい!そうしましょう!」

「そうだね」

「うんっ……!」

 

研究室にふたたび明るさが戻り、4人は年末までの研究の追い込みにかかった。