「ほら、もうすぐなんだから起きて!」
「そうだぞ!あと3分!カップ麺が出来るくらいの時間だ!!」
「んん~……かっぷめん……いらない……」
「さん、ぷん……うう……」
この家にヴィエンタを迎えてから、初めての年越し……なのだが、メイもヴィエンタも、普段は日付を越える前に眠っているため、年明けが目の前だというのに陥落寸前だった。
マルカとルガはなんとか2人が眠らないように、声を張って応援している。せっかくだからみんなで新年を迎えたい想いを懸命にぶつけるも、効果はいまひとつのようだった。
「何か……何か3分もたせられないか!?」
「わ、分からないわよ!ええっと……そ、そうだわヴィエンタ!新年の挨拶、なんて言うか知ってる?」
「しんねん……あいさつ……?わからない……」
半目で困ったように首を傾げるヴィエンタ。このままこてんと寝てしまいそうだったが、マルカの話を聴こうとなんとか傾けた首の位置を戻す。
「『明けましておめでとう』って言うのよ。それと、『今年もよろしく』。また1年、楽しく過ごせますようにってお願いしながら、ね」
「そう、なんだ……」
そんな挨拶があるなんて、知っていたのかもしれないけど知らなかった。ヴィエンタは口の中で小さく、言われた挨拶を反復して覚え、それからふっと微笑んだ。
「うれしい……」
突然にやってきた自分をこうやって受け入れてくれて、みんなで次の年も楽しく過ごそうと誓えることが、ヴィエンタにはとても温かくて、夢のようだった。
マルカとルガににこりと微笑んだ後、隣に座っているメイを見る。最早ヴィエンタの肩に寄りかかって眠りかけていた。無理はしてほしくない……けれど、4人で新年の挨拶をしたい。両方の想いがせめぎ合うが、最終的には。
「……。えいっ」
「!?ふわぁあああ!??」
ヴィエンタは身を引いて、寄りかかって全体重をかけてきていたメイをずるっと倒してしまった。それで一気に覚醒したメイは、床に激突する前に自分で身を起こした。
「ヴィエンタひどーい!!」
「あはは、ごめん……だって、ねそうだったから」
ぺしぺし、とヴィエンタの肩を叩くメイ。しかし、そうしているうちに面白くなってきて、メイも笑いだした。
「あは、あはははっ!もー、ヴィエンタのばかっ!」
「えへへ……いたいいたい」
すっかり目が覚めた2人の様子を見て、ルガとマルカも安堵の笑みを浮かべた。
「はは!!さすがヴィエンタ、メイの扱いはプロ級だな!!」
「ほんとね。……あ、あと10秒よ!」
壁にかかっているデジタル時計を見て、マルカが叫ぶ。はしゃいでいたメイとヴィエンタは、はっとして動きを止めた。
そして……。
「3、」
「2、」
「1っ!!」
「『明けましておめでとう!今年もよろしく!』」
4人で元気よく笑い合いながら、新たな年を迎えた。ルガとマルカが代わりばんこにメイとヴィエンタを抱き締め、メイとヴィエンタは幸せな笑顔をぱあっと咲かせる。
(ことしも、らいねんも、それからもずっと……こうやって、メイたちとすごせたら、いいな……)
ヴィエンタが新年の挨拶に込めた願い。それは1年とは言わず、この先もずうっとみんなで幸せでいられますように。
3人の温かさの中でまどろみかけながら、もう一度この願いを心の中で呟いた。