★えくれあさんの創作【Re:Eの手帳】3-4「師弟」のメイ視点のお話です。★
★フィリアが抱える闇については、同氏作【Re:Eの手帳】2-10「狂気なる全知」をはじめ、作品内2章で明らかになっています。★
フィリアの行方の手掛かりはなく、一家はそれぞれ別々の惑星を捜索することになっていた。見つけた者が、すぐに保護して一家とえくれあたちに連絡を回すーーという流れだ。
数日捜索したものの、一向に見つからない。そろそろ焦りも生まれてきた頃。
ーー惑星リリーパ 砂漠エリア。メイはここでフィリアの捜索をしていた。
「まったくー、どこほっつき歩いてんだかなー!!」
周囲を注意深く見回しながら、人の気配を探る。
しかしどこまで行っても、現れるのはダーカーか機甲種ばかり。他の地域に足を伸ばしてみようか……そう考えながら、奥地へと歩を進めていると。
「……おっ??」
遠くに、人影が。
目を凝らしてみる。青い髪、腰にはガンスラッシュ。馴染みのある顔。ーーその表情がひどく闇を抱えているのも見て取れた。
間違いなく、フィリアだ。メイはすぐに走り寄り、フィリアの前へ。フィリアは初めてメイの顔を認識し、驚愕の表情を浮かべていた。
「なっ……」
「やっと見つけたよ~!!もう、手がかかる弟子だな!!」
メイは心の中で、安堵と……胸騒ぎを感じていた。
いつもの明るく楽しく笑うフィリアとは違う。何があったのかは分からないが、表情からも雰囲気からも、以前の面影は感じられない。
ーー笑わなくなってしまった大切な人たちを重ねる。
「ひっさしぶりだね~!!元気にしてた!?」
メイは笑顔でフィリアに歩み寄る。フィリアにもう一度笑顔を見せて欲しい。帰ってきて欲しい。
「………」
フィリアはメイの歩みに合わせて後退る。
「ほら、帰るよ?みんな心配してんだからさ!!」
「……来ないで……」
「そんなびびんなよ~!!あたし、怒ってないし!!」
諦めずにフィリアを諭そうとするが。
「こ、来ないで!!」
フィリアは、顔を歪め、頭を抱えて、叫ぶ。
メイは思わず歩みを止めた。
ーー救えなかった大切な人たちを想起する。
手を差し伸べても、笑っていても、どうしてか救えない。……自分には、何も出来ないのか。
「……大丈夫だってば!!みんなちゃんとあんたのこと、出迎えてくれるさ!!」
そんなはずはない。
思考を一度閉ざし、フィリアに再び語りかけた。
「嫌……もう、私に居場所なんて……」
「……そう、決め付けてるだけじゃん?誰もあんたの事攻めたりしてないんだからさ!!」
言葉を選び、慎重に。また歩み寄り、手を差し伸べる。しかしフィリアの拒絶の意思は変わらない。
「嫌……来ないで……」
フィリアが無いと決めつけているであろう「居場所」。決めつけだろうと、本当にそうだろうと、他の誰が何と言おうと。師として、友人として、自分の所ならいつでも帰ってきていいと。メイはそんな思いを込めて。
「……大丈夫、あたしがフィリアを守ってやるからさ!!」
ーーしかし。
「いや……いやああああああああああああああああああ!!!!!!!」
フィリアは叫び狂いながら、ガンスラッシュを振り抜いて、差し伸べられていた手を斬り払おうとする。メイは咄嗟に跳び退いて回避しーー『スラストレボルシオ』に手を掛けた。
諭せないならば、ぶつかり合うしかない。感情を沈み込ませないように、明るさで意識を引き上げて、対峙した。
「やっぱ無理か~、じゃあ、久々に特訓と行くか~おら~!!」
「やめて……私に近寄らないで!!!」
フィリアは再び叫び、レーゲンシュラークでメイに迫る。メイはそれをひらりと躱し、続く猛攻もくるり、くるりと舞うように回避、ことごとく空を切らせた。
「どうして!!!どうして私に関わるのよ!!!!!私なんか……っ!!!」
それに苛立つように、フィリアが叫ぶ。
どうして。それは愛弟子を救いたいから。闇から解放し、笑顔になって欲しいから。
「弟子のピンチに何もしないお師匠様が居るわけないだろー!!」
だから笑顔でそう告げた。
「…っああああああああああ!!!!!!」
それでもなお、フィリアの攻勢は緩まない。フィリアは銃剣からツインダガー『ノクスネシス』に持ち替え、クイックマーチを仕掛けた。
「甘いんだよな~!!」
「っ!?」
メイはこれを、『スラストレボルシオ』の刃で往なす。
「あんたにツインダガーを教えたのはあたしだぞ~!!」
確かに、フィリアは目覚しい成長を見せ、ツインダガーも実戦レベルまで扱えるまでになっていた。しかしそれでもまだ師を超える程ではなく。
攻撃を往なされ一瞬動きを止めたフィリアへ、ついにメイが反撃に出た。
「おらおら~!!ツインダガーはこうやるんだー!!」
メイはフィリアにレイジングワルツを放つ。傷は最小限に。あくまでも救い出すためーーその想いに『スラストレボルシオ』は応え、致命傷にらならないよう刃の出力を抑える。フィリアの身体は僅かな鮮血を上げ、宙に浮き上がった。
ーー帰って来い。
想いをフォトンアーツに精一杯込めて、フィリアに放つ。
「あたしが勝ったら!!」
ツインダガーを交差させ。
「みんなの元に!!」
声と共にブラッディサラバンドを放つ。フィリアの身体には、少しずつーーとはいえ、幾つもの傷が付き。
「帰ってもらうからな~!!!!」
そこへ、渾身のシンフォニックドライブを放った。
「いやあああああああああああああああああああ!!!!」
フィリアも、一際大きな悲鳴を上げながら『ノクスネシス』を振り抜いた。
軌道は、見えている。これを躱して、トドメを刺せば終わり。
2人が交錯する、その僅か手前。
(ーーっ!)
メイの目に、フィリアの悲痛な表情が映った。
フィリアに帰ってきて欲しいのに、「笑って欲しい」のに……
……自分の刃が何のために振るわれているのか、一瞬わからなくなった。
想いは届かず、フィリアは心も身体も傷付いているだけなのではないか。そしてその傷を付けたのは。
ーー手が止まる。『スラストレボルシオ』の刃が霞む。
その直後、肉を裂く音が聞こえた。
「うぐっ……」
「っく……っはぁ……」
2人は交錯の後、互いに地面へと叩き付けられた。
地面をじわりじわりと浸食する赤。鉄の匂い。これは……メイのものだった。
『ノクスネシス』を鮮血に染めたフィリアは、呆然とメイを見下ろす。
「なん……で……メイさんなら……そんなの……簡単に………」
「ははは~……オウルケストラー……いい、キレだったよ~……」
メイはそう呟くと、ゆるゆると起き上がる。口から溢れる血と傷の痛みに阻害されながら、絞り出すようにフィリアの問いに答えた。
「そりゃあ~……『見えてた』けどさ~……」
答えながら、ふらふらと歩み寄る。怯えるフィリアの手を握りーーにっこりと、微笑んだ。
「大事な弟子だもんな~……とどめ、刺せなかったよ~……」
その言葉を最後に、握る手が自然と緩む。そのままがくりと地面に倒れ伏した。
残されたフィリアは、倒れたメイから逃げるように後退る。
「やだ……私……そんな……!!」
そして、来た道を振り返って、一心不乱に駆け出した。
---
その僅か数分後。
メイは、辛うじて再び意識を取り戻した。
「……やっぱ、あたしじゃ連れ戻せないか~……」
思わず、口を突いてそんな言葉が出てきた。
いつもなら封じ込めてしまう筈の「負の感情」が、溢れ出た。たとえ周りに誰もおらず1人であったとしても、関係なく笑顔の下に隠す筈のーー
ーーそう。「やっぱり」。
今回だって、やっぱり救えなかった。
もしかしたらこの先も。自分には何も出来ないままで……
朦朧とする意識の中では、噴き出る思考を封じ込める余裕などなかった。
思考をそのままに、懐から端末を取り出す。
「……お、君かい……悪いけど、力を貸して欲しいんだ……うん、砂漠にいるからよろしくね~……」
誰かと連絡を取り、通信を切ると、そのまま端末を取り落として項垂れた。
「少し疲れたな~……ちょっと寝るか~……」
身体を再び地面に預け、意識を手放す。
「負の感情」に追い立てられ、逃げるようにーー。