16-嘆きと刃に切なる想いを

★えくれあさんの創作【Re:Eの手帳】3-4「師弟」のメイ視点のお話です。★

★フィリアが抱える闇については、同氏作【Re:Eの手帳】2-10「狂気なる全知」をはじめ、作品内2章で明らかになっています。★


フィリアの行方の手掛かりはなく、一家はそれぞれ別々の惑星を捜索することになっていた。見つけた者が、すぐに保護して一家とえくれあたちに連絡を回すーーという流れだ。

 

数日捜索したものの、一向に見つからない。そろそろ焦りも生まれてきた頃。

 

 

ーー惑星リリーパ 砂漠エリア。メイはここでフィリアの捜索をしていた。

 

「まったくー、どこほっつき歩いてんだかなー!!」

 

周囲を注意深く見回しながら、人の気配を探る。

しかしどこまで行っても、現れるのはダーカーか機甲種ばかり。他の地域に足を伸ばしてみようか……そう考えながら、奥地へと歩を進めていると。

 

「……おっ??」

 

遠くに、人影が。

目を凝らしてみる。青い髪、腰にはガンスラッシュ。馴染みのある顔。ーーその表情がひどく闇を抱えているのも見て取れた。

間違いなく、フィリアだ。メイはすぐに走り寄り、フィリアの前へ。フィリアは初めてメイの顔を認識し、驚愕の表情を浮かべていた。

 

「なっ……」

「やっと見つけたよ~!!もう、手がかかる弟子だな!!」

 

メイは心の中で、安堵と……胸騒ぎを感じていた。

いつもの明るく楽しく笑うフィリアとは違う。何があったのかは分からないが、表情からも雰囲気からも、以前の面影は感じられない。

 

ーー笑わなくなってしまった大切な人たちを重ねる。

 

「ひっさしぶりだね~!!元気にしてた!?」

 

メイは笑顔でフィリアに歩み寄る。フィリアにもう一度笑顔を見せて欲しい。帰ってきて欲しい。

 

「………」

 

フィリアはメイの歩みに合わせて後退る。

 

「ほら、帰るよ?みんな心配してんだからさ!!」

「……来ないで……」

「そんなびびんなよ~!!あたし、怒ってないし!!」

 

諦めずにフィリアを諭そうとするが。

 

「こ、来ないで!!」

 

フィリアは、顔を歪め、頭を抱えて、叫ぶ。

メイは思わず歩みを止めた。

 

ーー救えなかった大切な人たちを想起する。

手を差し伸べても、笑っていても、どうしてか救えない。……自分には、何も出来ないのか。

 

「……大丈夫だってば!!みんなちゃんとあんたのこと、出迎えてくれるさ!!」

 

そんなはずはない。

思考を一度閉ざし、フィリアに再び語りかけた。

 

「嫌……もう、私に居場所なんて……」

「……そう、決め付けてるだけじゃん?誰もあんたの事攻めたりしてないんだからさ!!」

 

言葉を選び、慎重に。また歩み寄り、手を差し伸べる。しかしフィリアの拒絶の意思は変わらない。

 

「嫌……来ないで……」

 

フィリアが無いと決めつけているであろう「居場所」。決めつけだろうと、本当にそうだろうと、他の誰が何と言おうと。師として、友人として、自分の所ならいつでも帰ってきていいと。メイはそんな思いを込めて。

 

「……大丈夫、あたしがフィリアを守ってやるからさ!!」

 

ーーしかし。

 

「いや……いやああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

フィリアは叫び狂いながら、ガンスラッシュを振り抜いて、差し伸べられていた手を斬り払おうとする。メイは咄嗟に跳び退いて回避しーー『スラストレボルシオ』に手を掛けた。

諭せないならば、ぶつかり合うしかない。感情を沈み込ませないように、明るさで意識を引き上げて、対峙した。

 

「やっぱ無理か~、じゃあ、久々に特訓と行くか~おら~!!」

「やめて……私に近寄らないで!!!」

 

フィリアは再び叫び、レーゲンシュラークでメイに迫る。メイはそれをひらりと躱し、続く猛攻もくるり、くるりと舞うように回避、ことごとく空を切らせた。

 

「どうして!!!どうして私に関わるのよ!!!!!私なんか……っ!!!」

 

それに苛立つように、フィリアが叫ぶ。

 

どうして。それは愛弟子を救いたいから。闇から解放し、笑顔になって欲しいから。

 

「弟子のピンチに何もしないお師匠様が居るわけないだろー!!」

 

だから笑顔でそう告げた。

 

「…っああああああああああ!!!!!!」

 

それでもなお、フィリアの攻勢は緩まない。フィリアは銃剣からツインダガー『ノクスネシス』に持ち替え、クイックマーチを仕掛けた。

 

「甘いんだよな~!!」

「っ!?」

 

メイはこれを、『スラストレボルシオ』の刃で往なす。

 

「あんたにツインダガーを教えたのはあたしだぞ~!!」

 

確かに、フィリアは目覚しい成長を見せ、ツインダガーも実戦レベルまで扱えるまでになっていた。しかしそれでもまだ師を超える程ではなく。

攻撃を往なされ一瞬動きを止めたフィリアへ、ついにメイが反撃に出た。

 

「おらおら~!!ツインダガーはこうやるんだー!!」

 

メイはフィリアにレイジングワルツを放つ。傷は最小限に。あくまでも救い出すためーーその想いに『スラストレボルシオ』は応え、致命傷にらならないよう刃の出力を抑える。フィリアの身体は僅かな鮮血を上げ、宙に浮き上がった。

 

ーー帰って来い。

想いをフォトンアーツに精一杯込めて、フィリアに放つ。

 

「あたしが勝ったら!!」

 

ツインダガーを交差させ。

 

「みんなの元に!!」

 

声と共にブラッディサラバンドを放つ。フィリアの身体には、少しずつーーとはいえ、幾つもの傷が付き。

 

「帰ってもらうからな~!!!!」

 

そこへ、渾身のシンフォニックドライブを放った。

 

「いやあああああああああああああああああああ!!!!」

 

フィリアも、一際大きな悲鳴を上げながら『ノクスネシス』を振り抜いた。

軌道は、見えている。これを躱して、トドメを刺せば終わり。

 

2人が交錯する、その僅か手前。

 

(ーーっ!)

 

メイの目に、フィリアの悲痛な表情が映った。

 

フィリアに帰ってきて欲しいのに、「笑って欲しい」のに……

 

……自分の刃が何のために振るわれているのか、一瞬わからなくなった。

 

想いは届かず、フィリアは心も身体も傷付いているだけなのではないか。そしてその傷を付けたのは。

 

ーー手が止まる。『スラストレボルシオ』の刃が霞む。

 

その直後、肉を裂く音が聞こえた。

 

 

 

 

 

「うぐっ……」

「っく……っはぁ……」

 

2人は交錯の後、互いに地面へと叩き付けられた。

地面をじわりじわりと浸食する赤。鉄の匂い。これは……メイのものだった。

『ノクスネシス』を鮮血に染めたフィリアは、呆然とメイを見下ろす。

 

「なん……で……メイさんなら……そんなの……簡単に………」

「ははは~……オウルケストラー……いい、キレだったよ~……」

 

メイはそう呟くと、ゆるゆると起き上がる。口から溢れる血と傷の痛みに阻害されながら、絞り出すようにフィリアの問いに答えた。

 

「そりゃあ~……『見えてた』けどさ~……」

 

答えながら、ふらふらと歩み寄る。怯えるフィリアの手を握りーーにっこりと、微笑んだ。

 

「大事な弟子だもんな~……とどめ、刺せなかったよ~……」

 

その言葉を最後に、握る手が自然と緩む。そのままがくりと地面に倒れ伏した。

 

残されたフィリアは、倒れたメイから逃げるように後退る。

 

「やだ……私……そんな……!!」

 

そして、来た道を振り返って、一心不乱に駆け出した。

 

 

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その僅か数分後。

メイは、辛うじて再び意識を取り戻した。

 

「……やっぱ、あたしじゃ連れ戻せないか~……」

 

思わず、口を突いてそんな言葉が出てきた。

 

いつもなら封じ込めてしまう筈の「負の感情」が、溢れ出た。たとえ周りに誰もおらず1人であったとしても、関係なく笑顔の下に隠す筈のーー

 

 

 

ーーそう。「やっぱり」。

今回だって、やっぱり救えなかった。

もしかしたらこの先も。自分には何も出来ないままで……

 

 

 

朦朧とする意識の中では、噴き出る思考を封じ込める余裕などなかった。

思考をそのままに、懐から端末を取り出す。

 

「……お、君かい……悪いけど、力を貸して欲しいんだ……うん、砂漠にいるからよろしくね~……」

 

誰かと連絡を取り、通信を切ると、そのまま端末を取り落として項垂れた。

 

「少し疲れたな~……ちょっと寝るか~……」

 

身体を再び地面に預け、意識を手放す。

「負の感情」に追い立てられ、逃げるようにーー。