アークス船団周辺宙域に現れたダークファルスはーー『Re:Busters』の活躍によって撃退。
撃退と同時に、アークスシップを襲撃してきたダーカーたちと、ダークファルスと思しき反応も撤退。
ルガとの邂逅を果たすも、救い出せずロビーへと帰還した4人は、メディカルセンターで治療を受けた。と言っても、軽傷であったため、すぐに処置は済まされマイルームで身体を休めることとなった。
立ち上がれず、マイルームへ戻るまでの間もふらふらとしていたメイは、怪我自体は軽傷であったものの、過剰なフォトンの消費と精神的な疲労で最早限界だった。自室に入るなり、メイはすぐにベッドへ身を預け、1秒と経たず眠りについてしまった。
「これは……またしばらく起きんなあ」
ナナリカは掛け布団をも下に敷いて眠りこけているメイの身体に、彼女の普段着であるコートを取ってきて掛けてやる。そしてベッドの側に座ってもたれかかり、時々メイの様子を気にかけた。
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アテフは自室のソファーに腰掛けながら、ルガのことを思い返していた。
(確かに、見紛うことなくダークファルスの様相ではあったが……一度も自らこちらへ迫って攻撃してきては来なかった)
ルガは攻撃されたり接近されたりすると迎撃してきたものの、それ以外の行動といえばただこちらへ歩いてきていただけ。今考えれば、妙なことだった。
(それに……撤退時も、追ってはこなかった)
もしかしたらまだ、ルガの自我は僅かに残っているのかもしれない。だから自ら襲ってはこなかったのではないか。追ってこなかったのではないか。
(まだ、望みはある)
そう、思考に結論づけて、隣を見る。
隣に座るめぐは、どこか浮かない様子で足をぶらつかせていた。
「どうした、どこか痛みでもあるのか?」
「ううん、そうじゃないよ。……ほら、メイちゃんの武器壊れちゃったでしょ?どうするのかなーって」
勿論それも大事なこと。しかしめぐが気にしていることはこのことではないし、アテフに言うべきことではない。とりあえず、火急の話題を出して茶を濁した。
「ああ……そうだな。先のルガとの戦いを見てもかなり力を付けていた様だし、それに相応しい得物を見繕ってやらねばな」
「かなり無茶苦茶だったけど……」
一撃に過剰とも言える膨大なフォトンを消費してしまったせいで、武器にもメイにも負担が掛かってしまっていた。あれを見るに、メイが内包する力はアークスになったばかりの頃とは比べものにならない程大きくなっているのだろう。これに耐え得る、かつ、願わくば、あのように無茶なフォトンの使い方をさせないように制御できるーーそんな武器が望ましかった。
「フォトンの制御、か……」
「何か心当たり、あるの?」
「ああ、ひとつだけな。武器職人の伝もある。その武器を作れないか掛け合ってみよう」
「へえ!さすがあっくん!」
「喜ぶのはまだ早いさ」
アテフは早速、その武器職人へと連絡を入れた。
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次の日の朝。
リビングのキッチンで、めぐがいつもの通り朝食を作り、アテフもその隣で手伝いをしていた。
もうそろそろ出来上がる。いつもならこのくらいの時間にメイとナナリカが顔を出すはずだが、今日はどうなるだろうか。2人ともそう考えていたが、それは恐ろしいまでに杞憂だった。
「おはよー!!今日の朝飯何かなー!!」
「……お、おはよー……」
何が恐ろしいか。メイが、「いつも通り」なのだ。あれ程の出来事があったというのに、「いつも通り」なのだ。
一方でナナリカは、いつもより覇気がない。というよりも、困惑している。それはそうだろう、メイがこの様子なのだから。
それはアテフも同じで。
「メイ……もう大丈夫なのか?」
「だいじょーぶ!!疲れならバッチリ取れたよ〜!!」
「いや、そういうことではないのだが……まあ、何も言うまい……」
あえて掘り返して、また不安定になってもいけない。アテフはそれ以上言及はしなかった。
程なくして朝食が出来上がり、一家でテーブルを囲む。話はメイの武器のこととなった。
「昨日帰って来てから知り合いの武器職人に連絡したのだが、すぐに良い返事が帰ってきたよ。『丁度在庫がある、あとは操者のデータを参考に演算機構の調整をすればすぐに渡せる』とのことだ」
「??なーにその、演算機構って?」
「持ち主の状態や戦況によってフォトンの出力を最適に保ちつつ力を引き出し、かつ負荷を軽減するための機構……らしい。俺にも難しいことは分からないが」
「マジかー、なんかすっごい武器貰っちゃうんだなーあたし!!」
フォトンの出力もそうだが、精神面が揺れ動きやすいメイには最適な武器と言えた。
「で、それはいつ頃届くのだっ?」
「なるべく早くと伝えておきはしたが、どう考えても時間のかかる作業だろう。数日は見ておかなければーー」
と、アテフが言いかけた時、彼の端末からメールの受信を知らせるアラームが鳴り響いた。すまない、と一言置いて端末を確認すると。
「……恐ろしい奴め……」
「?あっくんどうしたの?」
めぐも端末を覗き込もうとするが、その前にアテフが驚きと安堵を含めた表情で内容を告げた。
「かの武器の調整がつい今しがた終わったらしい……」
「嘘!早っ!!」
「マジかー!!!」
「まさかてきとーにやっていたりはしないだろうな……!?」
めぐ、メイ、ナナリカはほぼ同時に思い思いの驚愕の声を上げた。
「腕は確かだし、まあ、武器のこととなれば変態とも言える程の集中力と速度で仕事に臨む奴だからな……。信頼はして良いだろう」
それでも信じられない、と3人が絶句しているうちに、マイルームのインターホンが鳴らされた。アテフが出ると、ドアの向こうにはボックスを抱えた壮年の男が立っていた。
「いや、どうも!!ご依頼頂いた『スラストレボルシオ』!一丁上がりでさあ!!アテフのダンナ!!」
「有難う、サギリ。だが渡すべき相手は俺ではないぞ」
サギリ、と呼ばれた武器職人の男は、そーでしたそーでした!と言うと、テーブルからきょとんとして玄関を眺めているメイに手招きをした。メイはひょいと椅子から降り、小走りでサギリのもとへ。
「アンタがこの子の相棒で間違いねぇですかい!?」
「あ、うんー!!そうみたい!!」
「よぉし、んじゃあ受け取りな!きっとアンタのために頑張ってくれるからよ、大事にしてやってくれな!」
サギリは『スラストレボルシオ』が入ったボックスをそっとメイに手渡した。
「っと、お代はもういただいてるんで!気にしねぇでくだせえ!それと……」
「?」
そう言って、サギリはメイに耳打ちした。
「アンタ、あんまり無理しなさんなよ」
サギリの言葉に、メイはまたきょとんと目を丸くした。真意を問う前に、サギリは早々にマイルームを後にする。
「んじゃあ、オレっちは次の依頼もあるもんでこの辺で!!毎度あり!!」
「おい、その前に少しは寝……。行ってしまったか……」
アテフが一晩中作業をしていたであろうサギリを案ずるも、その声が届いたかは定かではなかった。
「まあ良い。とりあえず……メイ、開けてみなさい」
「おっけー!!」
新たな武器、『スラストレボルシオ』との対面。食卓にいたナナリカとめぐも、その姿を拝もうとボックスを囲んでいた。
蓋を開けると、黒を基調として赤のラインが所々に入った本体が姿を現した。刃は無い。この構造からして、刃は抜刀時にフォトンを利用して展開されるのだろう。
「ほえ〜!!振るのが楽しみだな〜!!早速どっか探索に……」
「待て待て待て!オマエはもう少し休め!!」
「え〜疲れはもう取れたって言ったじゃんよ〜!!」
メイとナナリカが口喧嘩を始め、アテフが諌めようとすると。
「んあ?ちょいタンマ!!」
「なんだなんだ??」
「端末がなんか鳴ってる!!誰だろー……」
メイが端末を取り出し、通信相手との通話を開始した。
「あー、おおー!!えくれあかい!!聞いたよ、大丈夫だったのー??うんうんー、」
しばらく明るく話をしていたメイだったが、途中で一瞬だけ表情が曇り、また元に戻る。
「……マジかー、おっけーおっけー!任せときな!」
通信が切れるや否や、『スラストレボルシオ』を手に取って自室へ駆け込もうとした。
「ちょい!!メイ、何があったのだ!」
ナナリカが引き留めると、メイは笑顔のまま、
「いやさー、えくれあから『フィリアが昨日からチームルームにも帰んないし連絡もつかない、捜索手伝って』って言われたのさー!!」
と告げた。メイはこれからすぐにフィリアを探しに行くのだろう。
「オマエという奴は……!ワタシも手伝う!!手は多い方がよかろう!!」
ナナリカは有無を言わさない様子だった。
「俺も協力しよう。……色んな意味で放ってはおけんからな。めぐも、手伝ってくれるな?」
「……もちろんだよ、あっくん!」
やる気満々の3人に、メイは嫌とも言えず。
「……ありがと!」
と笑顔で頷いた。