13-絆と力を育むために

惑星ハルコタン 白ノ領域。

 

「そうそうー!!くるっとしゅばばっと!!」

「こう、ですかっ!?」

 

メイはこの日、もう何度目かになるツインダガーの指南をフィリアに行なっていた。

フリーフィールドの任務である「白ノ領域探索」。この場所を選んだ理由は、小型・中型・大型・飛行する敵など豊富なバリエーションのエネミー……もとい黒の民が闊歩しており、それだけ様々なパターンでの修行が可能だからだった。

 

こうして機転は効くメイも、相変わらず指南は擬音語混じり。しかしフィリアの方は何度もやっているうちに「習うより慣れろ」ということだろうと解釈し、メイのツインダガー使いを観察しては真似て、慣れてきたら擬音語の示す感覚を掴む……という方法を編み出していたのだった。

フィリアはそうして会得したレイジングワルツで打ち上げた小型エネミー パジギッリに、追撃のクイックマーチを叩き込んでいた。

 

「そーそー!!レイジングワルツにクイックマーチ、そこまでやれれば安心だな!!」

「!本当ですか!?ありがとうございますっ!」

 

パジギッリはクイックマーチのフィニッシュと同時に断末魔を上げて霧散していった。メイはフィリアの成長を感じては喜び、フィリアもまた褒められて嬉しそうに笑う。

 

「よぉーし!!んじゃあ今まで教えたこと生かして、暴走困ったちゃん黒の民討伐!じゃんじゃんいってみよー!」

「はいっ!」

 

2人は周囲に発生している敵性反応を順に追っていくことにした。

まずはテレポーターが置かれた場所に程近い、南西のエリア。ここには複数の中型エネミー アヌシザグリが宙を漂い、大型エネミーのアドオガルが得物の大砲を担いで睨みを利かせていた。

 

「お〜いるいる!!修行の成果、あいつらにとくと味わわせてやりなー!!」

「勿論です、いきますっ!」

 

まずは、アヌシザグリの1体へレイジングワルツで肉薄。弱点が隠れている顔の札を狙ってツインダガーを一閃した。札は切り裂かれ、弱点である頭を露出したアヌシザグリは慌てて手で顔を隠す。

 

「無駄ですっ……、!!」

 

そこへ追撃しようとすると、遠方からもう1体のアヌシザグリがこちらに札を投げつけてきていた。当たる前にくるりと回転しながら刃で札を往なし、武器を銃剣に持ち替え射撃で牽制。怯んだ隙に、またツインダガーに持ち替え先程のアヌシザグリの顔へシンフォニックドライブをお見舞いした。

 

「おーおー!!いい動き〜!!」

 

ツインダガーと銃剣を複合した戦闘スタイルも少しずつ確立しつつあるフィリアを賞賛するメイ。そんなメイの背後からも、アドオガルが大砲を構えて迫っていた。

 

「何だい何だい!!愛弟子の成長をゆっくり見守りたいのにさー!!」

 

文句を垂れながら振り向き、ツインダガーを抜く。発射される大砲の弾を横っ跳びに避け、死角へ回り、弱点の頭部を目掛けてレイジングワルツで飛ぶ。走った激痛に思わず倒れ伏すアドオガルの頭部へ、トドメのフォールノクターンを撃ち込んだ。イザオガルはうわ言のような断末魔を最後にぴくりとも動かなくなった。

 

「ふう、これで静かになったな!!さてフィリアの様子はっと!」

 

ツインダガーを納め、フィリアの戦いを再び見守るメイ。すでにアヌシザグリは最後の1体となり、フィリアはそれと対峙していた。

 

「メイさん!」

「おー??なになにー!!」

「少し試したいことがあるんです……このアヌシザグリは銃剣で倒してみてもいいですか?」

 

フィリアの申し出に、メイは快く頷いた。

 

「いーよいーよー!!『今まで教えたことを生かして』だから、フィリアのやりたいようにやってみな!」

「ありがとうございます!」

 

フィリアの試したいこと……それは、銃剣による「射撃」ではなく「斬撃」による立ち回り。

フィリアは射撃においては高いレベルの立ち回りを見せていたが、反面近接戦闘への苦手意識があった。そのせいで、仲間を窮地に陥れてしまったこともあった。

しかし、メイとのツインダガーの修行で近接戦闘への自信も確実に付いてきている。これは銃剣での「剣」の立ち回りにも生かせるかもしれない、そう踏んだのだ。

 

「……いきます!」

 

フィリアは銃剣を剣形態にし、アヌシザグリへ間合いを詰める。その間に札が放たれるが、フィリアはこれをすべて紙一重で躱す。十分に接近すると、サーペントエアで飛び上がりながら顔を塞ぐ札を狙う。

それは正確に、確実に札を吹き飛ばし、顔面を露出させた。思わず墜落して顔を抑えるその腕ごと、今度はトライインパクトで切り裂く。最後の突きで、腕を貫通し顔面に深々と刃がめり込んだ。

 

「できた……!!」

 

フィリアの猛攻に、アヌシザグリは為すすべなく霧散。読み通り以前よりも遥かに軽々と剣を振るえるようになっていることを自覚し、フィリアの表情はたちまち明るくなっていった。

 

「うんうん!!そっちの動きも前より全然いいよー!!」

「はい、嬉しいです!メイさんの指南のお陰です……!」

「ふふーん、そう言ってもらえてあたしも嬉しいよー!!でもまだまだ修行は続くぞ〜!!」

「はいっ!」

 

互いに称え合い、笑い合うと、2人は早速次のエリアへと走った。

 

 

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先ほどのエリアからまっすぐ北へ。

狭い路地のような通路に、先刻も相手をしたパジギッリ。そして、大型の黒の民イザオガルが丸太を背負い、それぞれ3体ずつ闊歩していた。

 

「いるねいるね〜!!こんな狭い所にデカいのが何体も居ちゃあ暑苦しくてたまんないだろーなー!」

「あはは……。でも本当に、こんな所でイザオガルに囲まれたらひとたまりもなさそうですね……」

「なら地面に居なきゃいいのさー!!丁度その辺の屋根も使えそうだし、高い所からずばずばっとやっちゃおう!!」

「なるほど……やってみます!」

 

2人は黒の民がひしめく通路を挟んだ両側の建物の屋根へ。2人の存在に気付いたイザオガルが、一斉に雄叫びを上げる。内、2体がフィリアのもとへ詰め寄り、屋根ごと打ち砕こうと得物の丸太を振り上げた。フィリアはそれをくるりと横っ跳びに躱し、叩き付けられた丸太によって崩壊する屋根から素早く跳躍、離脱した。大きく隙を晒すイザオガルの片方の頭部へ、フィリアはレイジングワルツを放った。見事命中し、イザオガルは地面へ倒れ伏す。トドメは……まだ刺さない。

もう一方の動きも同じようにして止めて、地面に倒れたところを銃剣の「銃」形態のシュトレツヴァイで周囲のパジギッリも巻き込み仕留めるーーという計画だ。

 

「!!」

 

フ空中でくるくると回転し、高度を保ちながらもう一方のイザオガルに接近すると、フィリアに向けて再び丸太を振り上げていた。このままでは叩き落される。フィリアは先刻メイがやっていた、攻撃の往なしに挑戦しようと試みた。

振り下ろされる丸太の軌道を、ツインダガーで逸らす……ここまでは良かったが、丸太の重い衝撃までは往なしきれず、地面に着地してしまった。

 

「しまった……!」

 

パジギッリに囲まれ、イザオガルがまた丸太を振り上げて迫る。銃剣に持ち替えるも、その間にもう丸太が頭上に迫っていた。パジギッリたちによって横にも後ろにも退けず、立ち尽くす。

 

「油断大敵ー!!!」

 

そこへ、メイが叫びながら乱入した。フィリアとイザオガルの間に割って入り、丸太を間一髪で往なした。

 

「すみません、ありがとうございます!」

「いいってことよー!!それより周り見て見てー!!」

「えっ、あっ!?」

 

いつの間にかパジギッリが一斉にフィリアに向けて飛びかかってきていた。メイが再び空中へ退避し、イザオガルの相手をし始めたのを見計らうと、フィリアはシュトレツヴァイを放った。360度全方位へばら撒かれた銃弾は、パジギッリをことごとく撃ち抜いた。それに巻き込まれた先ほど動きを止めた方のイザオガルもまとめて霧散していった。

 

「よ、よかった……」

 

ほっと溜息をついているうちに、メイもイザオガルを仕留めて隣に着地していた。

 

「いやーおっかないなー!!!弾、こっちまで飛んできたぞ!!」

「え!?すっすみません!!当たってないですか!?」

「大丈夫大丈夫!でもくれぐれも気を付けてくれよなー!!」

 

本気で青ざめるフィリアの心配を、メイはいつもの調子で笑い飛ばした。フィリアもホッとして思わず微笑む。

 

「んじゃー、次々いってみよー!!」

「はいっ、頑張ります!」

 

また次のエリアへ移動しようと、2人で歩き出したとき。

 

「……あっ、ちょっと待ってください!」

「お?どーしたどーした??」

「ちょっと通信が入ってきてて……」

 

フィリアの通信端末のアラームが鳴り、立ち止まる。通信はオペレーターかららしい。対応するフィリアを眺めていたメイだが、少ししてフィリアの声色が変わる。

 

「えっ……!?はい、はい、すぐに向かいます!」

 

緊迫した様子で通信端末の電源を切り、メイに向き直るフィリア。只事ではない様子に、メイは首を傾げる。

 

「どーした??なんかあった?」

「それが……、えくれあさんたちが、『Re:Busters』の皆さんが、採掘基地防衛の出撃依頼を受けたそうです」

 

『Re:Busters』とは、フィリアが所属し、えくれあがチームマスターを務めるチームのことだ。

採掘基地防衛。惑星リリーパの採掘基地を襲撃してくる多数のダーカーを退け、採掘基地を守る任務だ。そのメンバーに、『Re:Busters』が抜擢された。

 

「……メイさん、修行の最中ですけど、これだけは……行かせてください……!!」

 

フィリアは勢いよく頭を下げた。メイは目を丸くして、顔を上げるように促す。

 

「そんな一所懸命頼まなくったって分かってるってー!!ほら顔上げな!」

「メイさん……!!」

「あんたの大事な仲間がピンチだってのに引き留める訳にはいかないっしょー!!あたしも協力するし、一緒に行こうよ!」

 

愛弟子の悲しむ顔は見たくないし、放ってはおけない。メイはフィリアの願いを笑顔で快諾し、共に救援へ向かう意思を固めた。

 

「ありがとう、ございます……!」

「いいってことよー!!んじゃ、早速向かいますかー!!」

 

2人は取り急ぎ、キャンプシップへのテレポーターの転送を要請する。程なくして現れたテレポーターへ、駆け足で潜っていった。