次の日、予定通りアテフがシルファナに連絡を取った。一家とシルファナとの協力体制はこれを機に確固たるものとなり、早速親睦の意味も込めて、メイ、ナナリカ、アテフ、めぐ、シルファナの5人で任務へと赴くことになったのだった。
ゲートエリアで待ち合わせ、顔を合わせるなりメイとナナリカが元気に声を上げた。
「おっはよー!!!シルファナお姉さん、これからよろしくねー!!!」
「よろしく頼むぞーっ!!」
「はい。よろしくお願いします、メイさん、ナナリカさん。それにアテフさん……ご連絡、感謝いたします。めぐさんも、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、応じて貰えて有難い。よろしく頼む」
「よろしくーっ!」
挨拶を終えると、5人はクエストカウンターへと向かった。とりあえず適当な任務を……と、アテフがアークスクエストの一覧を開く。一番先頭に最新の依頼が表示されていたので、何の気なしに詳細を見た。すると。
「『環境汚染装置破壊』。遺跡エリアにて、ダーカイムに酷似した謎のダーカー兵器を確認。同時に……侵食核を持たないブーストエネミーが……」
「あっくん、これって……」
「ああ……メイが以前受けていた任務でも確認されたエネミーだ。そしてそれはヴィエンタの仕業であると……。つまり」
今、遺跡エリアにヴィエンタがいるかもしれない。
「マジか〜!!!てことは、そのダーカイムもどきもヴィエンタの仕業かもしれないなー!!」
「ヴィエンタ……」
3人の話を聞き、シルファナは悲しげな表情で呟いた。それを見たメイがシルファナを見上げてにこっと笑ってみせた。
「大丈夫だって!!連れ戻してなんやかんやして『負荷』ってのをどうにかしたら頭冷えるだろうし!!落ち込んでる暇あったらさっさといこー!!」
「メイ、さん……。そうですね、ここでクヨクヨしていても仕方ないですね」
シルファナにも笑顔が戻ったところで、受注の手続きを始めた。
「5人いるが、パーティ分けはどうする」
「ボクあっくんと一緒がいいなっ」
「……そう言うと思ったよ」
「だーかーらー!!!あっくん言うなー!!!あといちゃつくなー!!!」
大騒ぎしているのをシルファナに苦笑されながら、それぞれアテフとめぐ・メイとナナリカとシルファナでパーティを組み、分かれてキャンプシップへと乗り込んだ。
惑星ナベリウス 遺跡エリア。
2隻のキャンプシップはすぐ近くに着陸し、無事2つのパーティは合流した。
昼間だというのに薄暗い空、そこら中に満ちる邪悪な気配。森林の穏やかさとも凍土の美しさとも懸け離れたエリアだった。
「あからさまに悪いことが起きそうなエリアだな〜!!!」
「な、なんかちょっと怖いぞ……」
「ナナリー、まさか怖気付いちゃったのかい?」
「う、うるさい!!ふん!!このワタシがこの程度でっ!!」
「ふふ、その意気その意気〜!」
賑やかな3人をアテフとシルファナは微笑ましく見つめていた。それもつかの間、オペレーターから指示が飛んできた。
「異常なダーカー因子の反応はこのエリア内の3点です。また、侵食核を持たないブーストエネミーがその周辺を中心として広範囲に発生しています。それぞれ発見次第破壊と討伐を」
この指示と同時に、マップに異常なダーカー因子の反応を示す地点がマークされた。
「とりあえずこいつらをぶっ壊せばいいんだなー!!簡単簡単!!」
「いいえ、あともう1つご連絡が」
メイの言葉を、オペレーターが静かに制した。
「これらの他に、ダークファルスに酷似した……それでいて、フォトンの反応も僅かに示す不自然な反応が1つ確認されています」
ダークファルス、ダーカー因子ともフォトンともつかない……。
5人は顔を見合わせ、全員がその正体を確信していることを確かめた。
「この反応にもマーカーを表示しておきます。くれぐれもご留意下さい」
それでは、と締めくくられ、オペレーターとの通信は切られた。5人はすぐに、例の反応がある場所を確認した。それは一番北側のダーカイムもどきの近くでずっと止まっている。
「……とりあえず、まずはここ目指して行ってみっか!!」
メイの言葉に4人は迷わず首を縦に振り、一斉に駆け出した。
そんな中、シルファナだけがどこか浮かない顔をしていた。
(先程のオペレーターさんの言葉……)
ーー「ダークファルスと思しき……それでいて、フォトンの反応も『僅かに』示すーー」
(ヴィエンタの中でダーカー因子とフォトンの調和が崩れている……?)
原因は分からないが、オペレーターの口ぶりからしてそう解釈することができる。だとすれば、「負荷」に関する心配はない。しかし、このままでは……。
シルファナの中に大きな胸騒ぎが生まれ、その足を速めた。
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不自然な反応の主ーーヴィエンタは、設置したダーカイムもどきに手を当てながら満足げに微笑んでいた。周囲にはこの装置によって侵食された原生種たちとダーカーが、互いに争うことはなく唸りを上げながらうろついている。
「いいね。原生種とダーカーたちが入り乱れているのにこんなにも穏やかだ」
ヴィエンタが目指す『共存』の形が今、このエリア一帯に再現されていた。過去にシルファナと研究し、目指していた形とは全く違う、歪んだ形。しかし、ヴィエンタ自身はそれに気付いてはいなかった。
「3つで1エリア。規模も十分。ならばあとはーー」
そう呟き、ヴィエンタがダーカイムもどきから少し離れると同時のことだった。
「「ラ・グランツッ!!」」
「っ!?」
突如として2本の光のフォトンの束が現れ、射線上にいるダーカーや原生種を巻き添えにダーカイムもどきを貫く。ダーカイムもどきは為すすべなく霧散していった。
「ふふん、クリティカルヒットってやつだね!」
「そう、ですね……」
2本のラ・グランツは、めぐとシルファナが放ったものだった。そして2人の後ろにはメイとナナリカ、アテフが遅れてやってきていた。
「よー!!久しぶり!!やっぱりあんたの仕業だったんだな〜!!」
「まったくだ、どういうつもりなのか聞かせてもらおうではないかっ!」
「ヴィエンタ……。何故このようなことを」
聞き覚えのある声が聞こえ、ヴィエンタが顔を上げる。
「……アークスへの効果も試したいと思っていたら、キミたちが来るなんてね。丁度いいけれど……見た所なんの変化もないね。難しいものだ」
こともなげに呟くヴィエンタに、シルファナが語りかけた。
「ヴィエンタ……やっと、見つけたと思ったら……こんな……」
「シルファナ。ふふ、会えて嬉しいよ。けれど……どうして、邪魔をするの?『共存』のための大きな一歩なのに」
「これは少なくとも私が……いいえ、私とあなたが望んだ『共存』ではありません。それどころか、ダーカー因子による『支配』です……!」
シルファナは必死に叫ぶ。しかし、その声は届かない。
「何故?これがメイたちを幸せにする最適解だっていうのに」
この言葉に、今度は後ろにいたメイが一歩踏み出した。
「悪いけどさー、あたしはこんなのは望んでないんだよね〜。だってこれ、やってること昔とおんなじじゃん?どういう考え方したらこれが『共存』になるのかちょっと分かんないんだけど!!」
「悲しいことを言うんだね。でも大丈夫、じきに分かるさ。パパと一緒にまた暮らせる日……私が必ず取り戻してあげるから」
メイの声すら、届くことはなかった。
それきりメイは黙り込んでしまう。その沈黙と、話が通じない相手に痺れを切らしためぐが声を上げた。
「ねえ、このままじゃ埒があかないよ!メイちゃん、あいつどうするの?」
アテフではなくメイに意向を確認する。ヴィエンタとの問題は、一家の中ではメイが一番悩んでいることだということと、アテフにもそれが分かっているからだった。
「そーだなー。言って分かんないなら、ぶん殴るしかないよな〜!!」
メイはそう言って、ツインダガーを抜いた。
メイが武器を抜くと、ヴィエンタも長槍に手を掛けた。
「あは、喧嘩なんて久しぶりだね。でも一度もメイに勝てたことないからなあ。参ったね」
「そーそー!だから今回もあたしが分からせてあげるからな〜!!」
ヴィエンタと向かい合うメイの隣でシルファナが不安そうに見下ろしているのを感じ、メイは親指を立てて笑った。
「シルファナお姉さんは喧嘩苦手そうだし、まあこういうのは任せてよ!」
「……分かりました。ですが、援護はさせてください」
シルファナはそう言うと、メイにシフタとデバンドをかけた。
「なあメイ、ワタシは何をすればいいのだっ?」
「ナナリカはダーカーと原生種を頼んだよ!邪魔されちゃたまんないからね〜!!」
「承知っ!!」
メイたちのパーティはそれぞれ役目を決め、一方のアテフとめぐも。
「我々は残りのダーカイムもどきの破壊へ向かおう。本来の任務目的も忘れてはならん」
「構わないけど、ほんとにいいの?」
「何故だ?」
「メイちゃんたちが心配でたまらないの、顔に出てるよ!ボクは何でもお見通しなんだから!」
「……はは、敵わんなあ。だが大丈夫さ。それにダーカイムもどきの破壊はヴィエンタの行動の阻止にもなる。メイたちも望んでおることだろう」
「そっか。なら、頑張らないとね!」
2人はメイたちに目配せをし、走り出した。
「させない……」
背を向けたアテフとめぐに向けて、ヴィエンタはセイクリッドスキュア零式を放とうと長槍を構える。しかし、放たれる前にメイがシンフォニックドライブで長槍を弾いた。ヴィエンタは大きくバランスを崩すが、踏み止まってその脚を軸に回転、長槍を振るう。着地していたメイは跳び退いてそれを躱し、少し離れた場所にまた着地した。
「やっべー!!今の完全に殺る気だっただろー!!」
「まさか。擦り傷で済む間合いだったよ」
ヴィエンタも体制を立て直し、長槍を構え直した。
「まあ……今頃残りのダーカイム周辺には強力なダーカーも引き寄せられているだろう。2人でどこまでやれるかってところだね」
「言っとくけどなー、アテフおじさんはベテランだし、めぐも何だか分かんないけどめちゃくちゃ強いんだからな!!甘く見んな〜??」
「ふふ、そうかい。それならそれで、ここは諦めるけどね。本来の目的はここにはないから」
「??なんだそれ?」
メイが首を傾げる。
「ここにはね、あのダーカイムの影響範囲と効果を確かめに来ただけなんだ。貴重なモノだから壊されるのは惜しいけれど」
つまり、このエリア一帯は実験対象だったということ。
2人の会話を聞いていたシルファナが、思わずヴィエンタに問う。
「では……あれを何に使うつもりなんですか?」
「ふふ、それはお楽しみ」
「ヴィエンタ……!!」
悪戯っぽく笑うヴィエンタに、シルファナもメイも胸騒ぎを大きくしていくばかりだった。ひとつ分かるのは、ここでヴィエンタを阻止しなければとんでもないことが起きるであろう、ということ。
「……手加減してる場合じゃないってかあ〜。悪い事しようとしてる友達は全力で止めないとなー!」
「……私は間違ってなんかいないよ、メイ。どうして分かってくれないのかなあ」
互いに先程までとは明らかに違う空気を漂わせ、向かい合う。
そして、ヴィエンタの身体から赤黒いフォトンが微かに立ち上るのが見えた。
「ダーカー因子……!やはり調和が……」
シルファナの叫びにメイが振り返る。
「調和がなんてー!?」
「原因は分かりませんが、恐らく今のヴィエンタはダーカー因子とフォトンの調和が崩れています。それも、ダーカー因子がフォトンを上回る形で……」
それはつまり、実質侵食を受けている状態。ヴィエンタを狂わせているのは、「負荷」などではなく紛れもなくダーカー因子。
「……そーゆーことね。道理で話が通じないワケだ〜!!なら尚更手加減してちゃいけないなー!!」
メイはそう言うと、ツインダガーを構えて走り出した。
今ならまだ間に合う。ダーカー因子を浄化すれば、ヴィエンタはこれ以上過ちを犯さずに済む。ヴィエンタとまた、友達でいられるーー。
そんな想いを胸に、ヴィエンタとぶつかり合った。