6-大切な人のために

 

えくれあたちに助けてもらい、「凍土探索」を終えたメイは、凍土の自由探索資格とともに次の惑星ーーウォパルへの渡航許可を得た。

ナナリカも別の日に凍土探索をクリアーしていたため、2人で早速海岸への初任務ーー「海岸地域生態調査」へと赴いた。

 

「ほー!!綺麗なところだな〜!!」

「そうだなー!任務で来ているはずなのに、なんだかウキウキするぞっ!」

 

美しい海、美しい空、所々に見える石の構造物。これらが為すウォパルの絶景を、夢中になって眺めていた。そんな2人の目の前に、景観を損なう影が複数。

 

「あー!!邪魔すんなこら〜!!」

「そーだそーだ!!ウォパルのこの美しい風景を汚す者は許さんぞっ!!」

 

現れたのは、有翼型ダーカーたち。リューダソーサラーを先頭に、シュトゥラーダ、ティラルーダなどの小型種が甲高い鳴き声を上げてメイたちへ接近した。

メイはツインダガーを、ナナリカはワイヤードランスを抜く。そしていつもの通り。

 

「どっちが多く始末できるか競争な!!」

「望むところだっ!!」

 

そう言い合うと同時に、2人はダーカーたちを迎え撃とうと飛び出した。

メイが飛び上がり、小型種たちよりも高度を取る。メイを屠ろうと、数匹が固まって見上げてきているのを狙ってレイジングワルツで急降下。小型種たちはこれを避ける間も無く、纏めてツインダガーによって打ち上げられ、霧散していった。

ナナリカも負けじと、小型種の中の1匹を捕獲して高速回転させながら群れの中に放つーーアザースピンで吸い寄せられたダーカーたちは、発生した竜巻に切り裂かれていった。

 

「おっ、やるな〜!!」

「メイこそ、相変わらずやるではないか!今の所同点くらい、だろうかっ?」

「だな〜!!となると残りは……」

 

群れの大半を片付け、2人はダーカー側の大将であるリューダソーサラーに目を付けた。

 

「あいつの首をどっちが取れるか……!」

「最後の勝負、だなっ!!」

 

そうして、二人掛かりでリューダソーサラーへと迫っていった。リューダソーサラーは2人へ向かって大鎌を投げつけるが、2人とも左右へ回避。そして挟み撃ちの形となり、メイはレイジングワルツを、ナナリカはエアポケットスイング放って一気に間合いを詰めたーーが、リューダソーサラーは赤黒いフォトンを纏いながら突如として2人の目の前から消えた。

 

「おわーっ!!!」

「うわわわわっ!!?」

 

2人は間一髪で攻撃を止め、同士討ちを避ける。が、急停止した勢いで、2人ともその場に倒れこんだ。

 

「あっぶねー!!」

「し、死ぬかと思ったぞ……!!は、早くワタシの首元からダガーを遠ざけてくれっ!!」

「おっと、悪い悪い!!」

 

こうしている間に、リューダソーサラーに背後を取られていることには2人とも気付かず。足元に小さな魔法陣が現れたことで、やっと事態を察知した。

 

「こっこれは!!まずいぞ!!」

「やっべ!!いつの間に!!」

 

大幅に反応が遅れ、回避は明らかに間に合わなかった。が。

 

「ラ・グランツ……!」

 

リューダソーサラーのさらに後方から、テクニックを放つ声。生成された光の槍に貫かれたリューダソーサラーは、メイたちへ攻撃を放つ前に地面に落ち、その体を霧散させながら事切れた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

ラ・グランツを放った主ーーそれは、シルファナだった。

 

「おー!!おかげさんで大丈夫だよ〜!!ありがとー、超助かった!!」

「いいところを持っていかれてしまったなー!かたじけないっ!」

「いえ、何事もないのなら良かったです」

 

シルファナは胸を撫で下ろし、2人に微笑む。メイたちもそれににっこりと笑って応えた。

 

「そーだ、せっかく助けて貰ったんだし自己紹介しとかなきゃな!」

 

メイは立ち上がり、シルファナに名乗り上げる。

 

「あたしはメイ!ほんとありがとうなー!!」

「おっとと、ワタシはナナリカと申す者だっ!改めて、かたじけないっ!」

「……!」

 

シルファナは、自分の自己紹介を忘れて目を見開いていた。

なぜなら。

 

(メイ……?……まさか……)

 

その名前に、心当たりがあったから。

 

「ん??どしたー??」

「あっ、いえ……。私はシルファナと申します。メイさん、ナナリカさん、よろしくお願いしますね」

 

メイに声を掛けられ、慌てて名乗り、一礼した。

 

「シルファナかー!綺麗な名前だねー!」

「こらっ!!どう見ても歳上の相手なのに呼び捨てはいかんだろ!」

「アテフおじさんみたいなこと言ってる!!でもそれもそうだなー、シルファナお姉さんでいいかなー??」

「なーんか父上をけなしている感じがするぞー??」

 

またしても、聞き覚えのある名前が出てきた。

アテフーー数ヶ月前に、めぐという少女とともに浮上施設にやってきていた壮年の男性。アテフとめぐには、あの後も何度か人探しを手伝って貰っていた。

そのアテフを親しげに呼ぶこの少女たち。シルファナの中で、彼女たちとアテフたちが「探し人」の重大な手掛かりになるという確信が生まれていた。

 

「??シルファナお姉さんさっきからぼーっとして、どしたのー??」

「!いえ……」

「ん〜……どこか怪我でもしておるのか?それとも何か困ったことでもあるのかっ?恩返しもしたいし、何でも言ってくれて構わないぞっ!」

 

ナナリカの提案に、シルファナは顔を上げた。

 

(試して……みましょうか)

 

意を決し、2人にあの「探し人」のことを話した。今度は、包み隠さず。

 

「では……ひとつだけ」

「おっ、なになに〜??」

「人を、探しているんです。大事な人を……」

「ふむ、それは誰なのだっ?」

 

「……ヴィエンタ、という人です」

 

 

 

 

暫しの、静寂。

思わぬ人物の名前が出てきたことに、メイとナナリカは声も出せず目を丸くしていた。

 

「……ま、」

「?」

「マジかあ〜〜〜〜〜〜!!!!!」

「!!?」

 

この静寂を破ったのは、メイ。いつになく大声で驚愕の叫びを上げたその隣では、ナナリカがびくっと肩を震わせていた。

 

「突然大声を出すなっ!!ほらシルファナ殿も引いておるではないか!!」

「いやいやだってさ〜!!?こんなの驚くなって方が無理だって!!」

「それはそうだが……だからってなあ!」

「あ、あの……?」

 

シルファナは2人の予想以上の慌てぶりに困惑しながら、小さく声を掛けた。

 

「ああー、悪い悪い!!えっと、ヴィエンタだっけ??」

「は、はい。何か……ご存知ではないですか?」

「ご存知もなにも、あたしはあいつと幼馴染だよ!!」

 

シルファナは、やはり、と心の中で納得した。

 

(ヴィエンタがよく話していた『メイ』という子……この子で間違いありませんね)

 

続けて、話を切り出す。

 

「何でも構いません……あなたの知っていることを、差し支え無ければ教えていただきたいのです」

「んー、そうだ!何ヶ月か前にアムドゥスキアの火山洞窟で会ったよ!!あたしも10年ぶりくらいの再会だったもんだから、教えられることあんまりない気がするけど!」

「!会って……どんな、様子でしたか?」

「それがさー、」

 

メイは、かの火山洞窟であったことを全て話した。

 

10年前に起きた……ヴィエンタが「起こしてしまった」事件を悔い、今は再び幸せな日々を取り戻すために行動していること。

 

しかしそれが、「幸せ」とは程遠い行為であることーー。

 

「……そう、ですか……」

 

シルファナは悲しげな顔をして、俯いた。

 

「あたしが知ってるのはこれくらいだな〜。……ところでさ」

「?」

 

今度はメイが、シルファナに尋ねた。

 

「あたしたちも実はヴィエンタ探してるんだよねー!!だからさ……あたしが知らないヴィエンタのこと、よかったら教えて欲しいな〜!!」

「恩返しのつもりで聞いたはずなのに、質問返しになってしまってすまない……。けど、ワタシからもお願いしたいぞ……!」

 

メイたちもまた、ヴィエンタの手掛かりを探していた。

互いに重大な手掛かりを、そして同じ目的を持って、ここに居るーー。

 

「……分かりました。まだ全てはお話できませんが、出来うる限り、お教えしますね」

 

そうして、シルファナはヴィエンタとの出来事を語り始めたーー

 

 

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「ヴィエンタと私は……10年前に出会い、ウォパルでとある『実験』を行なっていました」

 

それはーー「フォトンとダーカー因子の共存」実験。

この研究がアークスの力になり、そしてダークファルスとなった者を助けるために必要だと。そう信じ、2人は研究と実験を繰り返した。

 

「ヴィエンタは、『メイたちがまた幸せな日々を取り戻せるように』と自ら実験体になることを申し出てきたんです。彼女の過去も彼女自身から聞いて知っていた私は、それを承諾しました。当然ヴィエンタに無理がかからによう配慮しつつ、実験をしていました」

 

そして、数年後。

ついに「フォトンとダーカー因子の共存」実験が成功する。成功体はーーヴィエンタ。

 

「私はすぐに、次の段階へ移ろうとしました……しかし……」

 

その後、シルファナは研究室でとある「おぞましいもの」を発見し、それがきっかけでーー

 

「研究室を『逃げ出し』、その折にヴィエンタも行方知れずになってしまったのです」

 

そして今、ヴィエンタを探し続けている。

 

「『フォトンとダーカー因子の共存』は、本来イレギュラーなもの……。相容れないモノ同士を宿したヴィエンタの身体には、負荷がかかってしまっています。だから、早く連れ戻して負荷の軽減方法を探さなければならないんです」

 

 

---

 

 

シルファナの話を食い入るように聞いていたメイとナナリカは、シルファナが言葉を止めた後もしばらく黙り込んでいた。

やっと口を開くも、出てくる言葉は驚きと困惑に染まっていた。

 

「……なんていうか、とんでもない話になってきたなー」

「う、うむ……」

 

ヴィエンタの様子がおかしかったのは、シルファナの言う「負荷」のせいだろうか。

だとすれば、このままではヴィエンタの身体が壊れるのが先か、暴走するのが先かーーどちらかを待つことになる。

 

「とにかく、早いとこヴィエンタを探さないとマズイってことだよな!!」

「はい……」

「そんなら、一緒に探そーよ!!ナナリカも、んでもってアテフおじさんやめぐも絶対協力してくれるし!」

「ああっ!勿論だぞっ!」

 

アテフとめぐとのことも話そうか……シルファナは少し迷ったが、きっと2人が家に帰ったら今日のことを話し、その流れでアテフとめぐとの関わりも分かるだろうと口をつぐんだ。

その代わりに、お礼を。

 

「有難うございます……!」

「こっちこそ〜!!お互いがんばろーなー!!」

 

メイたちはさっそく、シルファナと共にしばらく海岸を探索して回ったのだったーー