★えくれあさんの創作【Re:Eの手帳】2-2「初陣」のメイ視点のお話です。★
火山洞窟探索の日から、数ヶ月ーーA.P.241 6月。
これまでにもヴィエンタの足取りを探っていたものの、何も見つけられず。
こうも何もないものか、と逆に違和感を覚えながら、日々を過ごしていた。
そして今日も、メイは手掛かりを探しつつ探索範囲拡大のため、任務をこなす。この日は一家全員が別の任務に赴いていたため、単独であった。
「凍土探索」ーー見渡す限りの銀世界を踏みしめながら、ここ数ヶ月のことを思い返していた。
「ほーんとなんもなさすぎるよなー。どっかに引きこもってなんかやってんのかなぁ??」
と、考え無しに発した言葉だったが、不意に数ヶ月前に出会ったヴィエンタの言葉が脳裏を過ぎる。
ーー『まだまだ『調整』が必要かなあ』
調整……おそらく、火山洞窟の龍族に変化を与えた「何か」に対してだろう。
(マジで何かやってるかもしんないなー……なんだかなあー)
何故、あんなことを。考えれば考えるほど分からない。
ーーそうして物思いにふけっていたことが命取りだった。
「……ありゃ?」
自分の現在地を確認しようとマップを開いて、気が付く。
マップは今回の任務の探索範囲しか表示されない。その探索範囲のどこにも、自分のマーカーがついていなかった。つまり……。
「マジか〜!!探索範囲から離れすぎちった!!やらかし〜!!!」
自分の失態に大笑いしながら、片手で側頭部をぺしっと叩いた。とりあえず考え事は心の底に封じつつ、近くの岩に腰掛けてこれからどうするかを思案した。
来た道は覚えていない。適当に歩いて戻れるとも限らない。ならば、取れる選択はひとつ。
「とりあえずオペレーターさんに連絡すっか〜!」
メイは懐から端末を取り出し、オペレーターとの通信を試みた。が。
「グルルルル……」
「んっ?なんだなんだ、やるか〜??」
前方から、凍土の原生種……ガルフルの群れがメイを睨んでいた。
連絡は彼らを倒してから。そう思い、端末を仕舞おうとしたーー
「!!」
背後からも飛び出してくるガルフルの気配に気付き、咄嗟に横っ飛びに回避。怪我は免れたものの。
「っおわ!!ちょいちょいちょい!!」
このときに、手を滑らせーー端末が、すぐそばの谷へ真っ逆さまに落ちていった。
「ったくも〜このやんちゃくれ犬〜!!お仕置きしちゃうからな〜!!」
メイは落ちていく端末をなすすべなく見送ると、自分を取り囲むガルフルの群れを見回しながらツインダガーを構えた。
殺してしまわないように加減しつつガルフルの群れに痛手を与え、メイを強者と認識したガルフルたちは尻尾を巻いて退却していった。
「ふっふっふ、どーだ参ったか〜!!」
ガルフルたちの背に向かって楽しげに叫ぶと、再び自分が置かれている現状を振り返った。
頼りの端末は谷底。当然取りに行けるはずもない。万事休すーーとなるほど、メイの心は弱くなかった。
「ま、なんとかなるっしょ!!」
メイは、先ほど捨てた「適当に歩く」という選択肢を取った。ここが自分の探索範囲外であっても、他の任務にやってきているアークスならばこの辺りにも足を踏み入れる可能性がある。それに、奇跡的に探索範囲まで戻れるかもしれない。これらの可能性に賭け、再び銀世界を歩き始めた。
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「救援任務、ですか?凍土の……。はい、ええ、」
アークスシップのとあるチームルーム。
メイが迷子になってから少し経って、このチームルームの人物たちに「救援任務」の依頼が舞い込んでいた。
「……姉さん、フィリアさん。任務の時間です」
黒衣を纏った少女ーーこのチーム「Re:Busters」のマスターであるえくれあが、居合わせていた2名に声を掛けた。
「ふえっ?ひょっろまっへ、ほれたえおわっへはら」
「エーテルさん、飲み込んでからにしませんか……?」
口いっぱいのドーナツを頬張りながらえくれあの呼び掛けに答える、「姉さん」と呼ばれた金髪の女性ーーエーテル。
その様子を、青髪の少女ーーフィリアが苦笑いで咎めた。
えくれあは姉の体たらくに頭を抱えたが、そのまま話を続けた。
「場所は凍土。要救援者の救援任務です」
「んっ、ふー美味しかった……っとと、了解〜!!早速いこいこー!」
「あっ、姉さん、そんな格好のままでは風邪を……」
えくれあの静止も虚しく、エーテルは武器を取ってテレポーターへと駆けていった。
「はあ……。フィリアさんも、準備をしてくださいね」
「わかってます」
エーテルとは対照的にどこか不服そうなフィリアだったが、準備の手は休めずすぐに武器を持ってテレポーターへ歩いていった。
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えくれあたちが受けた任務は、メイの救援任務だった。
実は、落とした衝撃で端末のスイッチが入り、谷底でオペレーターとの通信が繋がっていたのだ。物言わぬ通信相手にオペレーターが異常事態を察知し、救援任務として依頼の発注をした……という経緯である。
そんなこととはつゆ知らず、メイは元気に雪の中を歩いていた。
「ん〜あっちかなー??こっちかなー??いやいやここはさっき来たような〜??」
周りの景色をぐるぐる眺めていると、視界の端に黒い影が現れた。そこに目をやると、もうひとつ、またひとつと増えていく。
「ほ〜!!今度はダーカーのお出ましか〜!!あんたらなら手加減はいらないな〜!!」
複数の水棲型ダーカーに囲まれながらも、余裕の笑みを浮かべるメイ。どれから仕留めようかと吟味していると。
「……おやっ??」
ダーカーたちの隙間から、こちらに向かって走ってくる3つの人影が見えた。黒衣の少女を先頭に、金髪の女性、青髪の少女ーーえくれあ、エーテル、フィリアだった。
メイはえくれあと目が合うと、大きく手を振った。
「おー!!もしかして応援かな~??助けに来てくれてありがとー!!」
「え、ええ……お怪我はありませんか?」
要救援者とは思えないメイの様子に困惑しつつ、えくれあはやりとりの片手間にデュアルブレードーー「ブランノワール」を抜き、襲い来るガウォンダを斬り捨てた。
メイは相変わらずニコニコしながらえくれあの心配の声に答えた。
「怪我なんかしてないよー!!いや~、実は凍土の探索に来てたんだけど、迷子になっちゃってねー!」
てへ、と舌を出しながら笑うメイに、エーテルがミクダの攻撃を躱しながら駆け寄って来た。
「それで、ダーカーに襲われて大ピンチ!!って感じなのかなっ?」
メイの目の前まで来ると、エーテルは念のためレスタをかけ、問いかける。
「ん~??いやいや、迷子になってる時に連絡しようと思ったら、うっかり端末を谷底に落としちゃってさ~!!そんでもってダーカーなんて出てきたもんだから、やんのかおらあ~!!ってところできみたちが来たってわけよ!!」
メイは命の危険に晒されていたわけではないことを3人に説明すると、再びダーカーたちへ視線を戻した。3人もメイの話を聞いて安堵の表情を浮かべる。
となれば、あとはこのダーカーたちを倒して4人で帰還するのみ。次に声を上げたのはフィリアだった。
「とにかく、こいつらを迎撃しましょう…ってきゃあっ!?」
「フィリアさん!?」
が、フィリアの死角から2体目のガウォンダが襲い掛かる。えくれあが助けに入ろうと試みるも、ガウォンダの妨害で動けないーー
「お!!大丈夫かい!!じゃあいっちょやっちゃうよ〜!!それそれー!!」
フィリアの悲鳴に気付いたメイは、振り向いてすぐにガウォンダへ接近する。
「人殺しはいけないんだぞ〜!!死ね〜っ!!」
よく分からない暴言を吐きながら、レイジングワルツを放ちガウォンダを打ち上げた。空中で無防備となったガウォンダに、続けて容赦無くフォトンアーツの連撃を叩き込んでいく。
その様子を呆気に取られながら見つめていたえくれあとエーテルを他所に、メイは残りのダーカーを片付けにかかった。しかし、何体かのミクダはメイの攻撃をすり抜けて背後のエーテルとフィリアに襲いかかっていった。
「っと、さすがにこの数じゃあそーなるよね〜。そっちいったぞー!!」
それを目にするや否や、メイはエーテルたちへ危険を知らせる。
「おっけーっ!!かっこよく決めちゃうよっ!!」
「…負けない……いきます!!!」
エーテルは張り切った笑顔でミリオンストームを、フィリアは怒気をはらんだ表情でアディションバレットを。2人の猛攻は、ミクダたちを残らず葬り去っていった。
ダーカーたちを無事殲滅し、メイはえくれあたちに連れられてキャンプシップへと歩いていた。隣を歩くえくれあが、はたと気が付いてメイを見上げる。
「そういえばあなた……お名前はなんと仰るのですか?」
尋ねられ、メイもまたはっとして声を上げた。
「あー!!そういえば自己紹介まだしてないじゃん!!あたしはメイ!!よろしく頼むよ〜!!」
にっこりと笑って名乗ると、3人も続けて自己紹介をしていく。
「メイちゃんっ!!わたしはエーテルだよっ!!」
「えくれあと申します」
「あ、フィリアって言います。よろしくお願いしますね!!」
3人の名前を聞いて、メイはますます笑顔を輝かせた。
「ほ~ん、みんないい名前だねぇ!!仲良くしてよね~!!」
と、ここまで言ってふと考えた。
仲良くは、したい。
しかし、今自分や一家が抱えることに巻き込んでしまうのではないか。
ーー知られたくないものまで知られてしまうのではないか。
考えて、蓋をした。余計なことまで考えてしまう前に……
……思考を切断し、ふと見上げると、前方にキャンプシップが見え始めた。メイは快活な笑顔で伸びをし、
「おっ、ようやく帰れるかー!!疲れたなぁー!!」
と声を上げた。これに続いて、えくれあたちも口々に今の気分をこぼし始めた。
「ふぅ、呑気なものです…」
「帰ったらお風呂かなっ?ご飯かなっ?」
「新妻みたいな事言わないでくださいよ~…でもほんとに疲れましたね~!」
このあと、4人はキャンプシップに乗り込み、アークスシップへの帰路へとつく。この間にも、キャンプシップの中は楽しげな声で満たされていた。
「ふー!!お腹減ったねー!!」
1日凍土を歩き回っていたメイは、空きっ腹を撫でながら笑う。今日のご飯はめぐが作ってくれるのだろうか。そう考えていると。
「メイさん、良かったら食事をご一緒にどうです?私達のマイルームで良ければご招待しましょう」
えくれあが、にこやかにそう提案してきた。そんなえくれあに、怪訝そうにフィリアが尋ねる。
「えくれあさん、料理できるんですか?」
「えぇ。流石にプロの料理人と比較されると難しいものがありますが…」
「わっほーいっ!えくれあちゃんの手料理はほんっとに美味しいんだよーっ!!」
えくれあが澄ましながら答えると、隣のエーテルが大喜びしながらえくれあの手料理を賞賛した。
そんな話になるとは思っていなかったメイは、どうしたものかと思案する。連絡さえ取れば特にどうということはないが、メイの心配はそこにはない。
(まー……1日だけなら大丈夫か!)
とはいえ、せっかくのお誘い。断るのも申し訳ないし、と思い直して、
「それは楽しみだねー!!ぜひお邪魔させてもらうよ!!」
と、えくれあの誘いを快諾した。
エーテルとともにきゃっきゃと騒ぐメイ。この両名に挟まれながら、フィリアはバツが悪そうに頬を膨らませ、「…お手並み拝見です…」と呟いた。
「分かりました。今日は随分たくさん作らなくてはいけませんね…!!」
「いやっほ~いっ!!!!!!!!!!!」
「ちょ、エーテルさん!!船墜ちちゃいますから!!落ち着いて下さい!!!」
少し張り切りを見せるえくれあに、ますます大喜びして跳ね回るエーテル。キャンプシップが揺れ動くのではないかという勢いに、フィリアが大慌てでエーテルを宥めようとした。
メイは3人の様子に思わず大笑いした。
「あははははは!!きみたち面白いねー!!!」
たまにはこういうのもいい。メイは暫し心配事を忘れて、心から笑っていた。
この出会いが、メイにとっても、そして彼女たちーーとりわけ、フィリアとってもーー大きな影響を与えることになることは、まだこの場の誰も気付いてはいなかったーー。