2-共に歩むために

森林探索を経て惑星アムドゥスキアへの任務資格を得たメイとナナリカは、その翌日に早速アムドゥスキア初の任務ーー「龍族生態調査」を受注した。依頼内容は、「火山洞窟内の不穏な観測データの調査」。

2人は意気揚々とアムドゥスキアへ降り立ったーーのだが。

 

「あっっちいな〜!!ナナリカのパーツも熱気感じるけど大丈夫〜??」

「んあ、ワタシは暑さというモノはよく分からんから大丈夫だぞっ!しかし鋼鉄の身体ゆえにうっかり触れると火傷するかもしれんな!」

「へー!今ならナナリカの身体で目玉焼き焼けそうだな!!」

「ば、バカなこと言うな!!ほらさっさといくぞ!!」

 

そこは、ナベリウスの緑豊かな森林とは打って変わって、赤黒い岩壁がそそり立ち、そこかしこに真っ赤なマグマが煮えたぎる地獄の様相を呈した地ーー「火山洞窟」だった。

いきなりこのような過酷な環境下への任務を命じられることは、アークスの厳しさを身をもって感じてこいという意味なのだろうか。そんなことも考えつつ、2人は地獄の大地を進んでいく。

 

「確かここの龍族って奴らは、アークスとも交流があるって話だよね??」

「ああ、先人たちの努力で良好な関係を築けているとかなんとか!侵食さえされていなければ話は通じるのではないかっ?……おや、噂をすれば!」

 

2人の進行方向から、1匹の龍族が歩いてきていた。剣と盾を装備した「シル・ディーニアン」だ。見たところ、侵食の気配はない。丁度いい機会だ、とかの龍族との対話を試みた。

 

「おーいっ!!そこの龍族さん!!あたしたちとちょっとお話しよーよー!!」

 

メイが笑顔で手を大きく振る。龍族はすぐに気付き、返事をした。

 

〔アークスか〕〔話とは何だ〕

 

友好的……とも言えないが、交流の意思はあるらしい。こうしたことも、アークスとしての経験となる。しかし。

 

「話ってのはー……何だろう?」

「おいおい……」

 

後先考えずとりあえず声をかけてしまったため、何も話題が浮かばない。そんなメイの代わりにナナリカが苦し紛れに話を切り出した。

 

「えっと、最近何か変わったことはなかったかっ?ワタシたちもアークスであるし、不安なことがあれば解決してやれるかもしれん!」

 

ナナリカのアークスらしい質問に、メイは思わず、おおーっと感嘆の声を上げた。龍族はというと、質問を受けて少しの間思案した。

 

〔そういえば〕〔アークスではない何者かが〕〔最近うろついていると〕〔聞いたことがある〕〔姿はそなたらと同じ〕〔ヒトであったと〕

 

この答えを聞き、メイとナナリカは顔を見合わせた。

 

「アークスじゃないけどヒト……」

「それってまさか……!」

 

今度はメイが龍族に向き直り、少し興奮気味に問う。

 

「そいつは黒色で、なんかすっげー禍々しいオーラ的なのを放ったりしてなかった!?」

〔いや〕〔黒に近くはあったが〕〔禍々しさは感じなかったと〕

「ん〜……じゃあじゃあ、そいつ何か武器とか持ってなかった??」

〔刺々しい〕〔物騒な長槍を〕〔持っていたと〕

「ふーむ……そっかあ〜。じゃあ違うのかあ……」

 

メイが期待していた答えではなかったが、それでも不審な人物には変わりない。アークスではない人間が、このような場所に立ち入るなどあり得ないのだから。

 

「ありがとー!あたしたちでもそいつの手掛かり探してみるわ!」

〔あれのせいで〕〔少々気が立っている〕〔有難い〕

「ふふーん、ワタシたちはアークスだからな!当然の行いだ!」

 

そう言葉を交わし、龍族と別れようとした。

 

「っとと、その代わりと言っちゃなんだけどさー……」

〔何か〕

 

メイが思い出したかのように慌てて振り返る。

 

「真っ黒で、禍々しくて、ツインダガーみたいな武器を持ってるヒト的なのを見かけたら、知らせてくれると嬉しいな〜!!」

 

メイの願いに、龍族は首を縦に振ってくれた。

2人は感謝を述べ、奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

「んま〜、そう簡単には見つかんないかあ〜!」

「うむ……まあこれに気を落とさずいこうではないか!どこにいようが必ず見つけ出すのだろうっ?」

「勿の論!!あと別に気落ちなんかしてないからな〜!」

 

メイとナナリカ、そしてアテフの3人には、ある「探し人」がいる。

メイとナナリカがアークスになったのはその「探し人」を見つけ出し、「連れ戻す」ため。為すべきこととは、これである。

 

「まだアークス生活始まったばっかだし、まあのんびりいこ!」

「……そう、だなあ」

 

ナナリカは少し歯切れの悪い返事をした。

 

(のんびりなど、本当はしたくないのだろうに……)

 

ナナリカはそう思いながら、笑顔で鼻歌を歌いながら歩くメイを見上げていた。

きっと一番「探し人」のことを案じているであろうにもかかわらず、いつだって笑顔だ。

 

「なんだ〜ナナリカ、そう言ってるあんたが気を落としちゃってるじゃないの!」

「ふえっ!?そそそんなことはないぞっ!!」

「それならいいけど!!落ち込んでちゃなんにも見えなくなっちゃうんだからさー、楽しくいこーよ楽しく!」

「お、おう!!そーだな!!」

 

ナナリカの心配を他所に、メイは変わらず明るく振る舞う。ナナリカはその勢いに押される形で思わず笑って見せた。

 

彼女たちの声を聞きつけたのか、いつの間にか目の前には複数の龍族が行く手を阻んでいた。先ほど出会った龍族とは違い、全員が明確な殺意を持って2人を睨んでいる。そして、赤黒いフォトン……ダーカー因子を纏っていた。しかし。

 

「おっと、お出ましだね〜!!って……あれあれ??」

 

メイはこの龍族たちの違和感に気付く。

侵食核が、存在しない。

 

「おっかしいな〜、侵食されてんなら侵食核持ってるはず……だよねー??」

「そのはずだぞっ、どこかに見えないくらい小さな侵食核でもあるのか……?」

 

武器も抜かずに話し合っている間に、龍族たちが迫ってきていた。

2人は慌てて臨戦態勢に入る。侵食核は持たずとも、侵食されていることは明らか。侵食核を破壊して正気に戻すという方法しか知らない2人は、彼等を葬るしかなかった。

 

 

 

 

 

「ふー、可哀想だけど……勘弁な!」

「うむ。侵食された原生生物もその星の生態系を狂わせてしまうからな……致し方のないことなのだ」

 

倒した龍族たちには聞こえるはずもない謝罪を述べ、2人は先へと進んでいった。

道中の話題は、先ほどの不自然な龍族たちのこと。

 

「それにしても、ほんと変な感じだったよね〜!!これはひと山ありそーな感じ!」

「そうだなあ。きっとアレが、『不穏な観測データ』の正体であろう。あとはその元凶さえ分かれば……」

 

ナナリカはここで、ふと龍族から聞いた「不審な人物」のことを思い出す。

 

「もしかしたら、そやつと関係があるやもしれんな!」

「あー確かに!!超怪しい!!そいつを探し出して何だかんだすればきっと解決だー!」

「何だかんだとは何だ……」

 

任務としては「不穏な観測データ」の正体さえ掴めばとりあえず達成となるが、まだ時間はある。2人は「不審な人物」を捜索することに決めた。

 

「こういうのは二手に別れた方がよさそーじゃない?なんか見つけたら通信端末で連絡!とかとか!」

「うむ、確かに……。しかし相手がどんな奴か分からんし、少し不安だな……」

「そーゆーときはテレパイプさ〜!!どうしてもヤバくなったらコレでキャンプシップに戻ればおっけー!」

「なるほど……それもそうだなっ!よぉし、それじゃあどちらが先に何かを見つけられるか競争だっ!」

「望むところだー!!」

 

そして、森林探索のときと同じように、よーいどん!の合図で別々の道へと駆けて行った。

 

 

 

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メイの行く手には何度もかの不自然な龍族たちが立ちはだかり、これを単独で撃破し続けていた。

 

「いい修行になるな〜まったく!!でもそろそろ終わってくれてもよくないー??」

 

しかし、龍族の勢いは止まらない。疲労が見え始めたメイは、ブラッディサラバンドで牽制しつつ戦線離脱を試みた。

少しずつ龍族たちとの距離が開いていき、一休みできる場所を探す程度の余裕が生まれると、手近に岩場を発見した。ひとまずはそこに身を隠し、体力の回復を図るのだった。

 

「クッソ暑いし余計疲れるよな〜も〜」

 

ボヤきながら手で顔を扇いでいると、こちらに接近してくるような地響きに気付いた。メイははっとして立ち上がり、ツインダガーを構える。地響きは段々と大きくなりーーメイの足元で停止した。

 

「うおおおおっとおー!!!」

 

その直後、地面を割って何か巨大なものが飛び出してきた。メイは間一髪で跳び退いて避け事無きを得たが、目の前には。

 

「グオオオオオオオオオンッ!!!」

「マジか〜!!!」

 

大型の龍族ーーキャタドラン。しかもそれは、ダーカー因子を纏っていた。やはりと言うべきか、侵食核は存在しない。

メイが動き出す前に、キャタドランが長い身体をしならせて猛攻を仕掛けた。巨体の割に動きは速く、侵食の影響もあって戦闘能力が格段に強化されているーー今のメイでは回避すらたどたどしかった。

 

「ちょっ、タンマタンマ、!」

 

足がもつれ、バランスを崩す。その隙に、キャタドランがメイを叩き潰そうと尻尾を振り上げた。

 

(やっべ……!!)

 

思わずツインダガーを頭上で交差させ、ガードを試みる。直後に襲うであろう衝撃と痛みに覚悟を決めた。

 

が、それは訪れることはなく。

代わりに、キャタドランの悲鳴と尻尾が砕ける音が聞こえた。

 

「……??」

 

メイが顔を上げると、目の前にはーーパルチザンを掲げた見慣れない背中が。誰なのかを認識する前に、その人物はキャタドランへ追撃を仕掛けた。

尻尾の内側にある弱点を覆っていた結晶を砕かれ無防備になったそこに、ティアーズグリッドを叩き込む。連続の刺突で尻尾の肉が潰れていく嫌な音を立て、最後の一撃で下半身をも原形を留めないまでに吹き飛ばした。

 

キャタドランがいとも簡単に葬られる様をぽかんと眺めているしかなかったメイだったが、この人物が握る武器の形状を見て我に返った。

 

(「刺々しい物騒な長槍」……怪しい奴ってこいつだ!!)

 

そう思うと、メイは再びツインダガーを構えた。かの人物は長槍を振り払いーーメイの方を振り向いた。

 

「!!」

 

その顔には、見覚えがあった。

見覚えどころか、忘れもしない。

 

「ヴィエンタ……なの?」

 

不審な人物ーーヴィエンタは、名を呼ばれてニコリと微笑んだ。

 

「久しぶりだね、メイ。10年ぶりくらい……かな?覚えていてくれて嬉しいよ」