11-少女の決意に応える決意を

★えくれあさんの創作【Re:Eの手帳】2-5「決意の先に」のメイ視点のお話です。★


ーー『任務報告を受け協議致しました結果、ヴィエンタに関してはダーカー因子を浄化の上保護・また、彼女に関する情報収集への協力体制を整える運びとなりました』

 

 

 

シルファナが言っていた人物と共に任務報告に立ち会い、それが終わって一晩が経った次の日の朝。起床すると、管理局から嬉しい知らせが届いていたのだった。すぐにリビングへ飛び出し、同じ知らせを受けたアテフとめぐと共に喜びあった。

 

「マジか〜!!!いやー助かっちゃったなー!!!えっとなんだっけ、シャ……シャラ……」

「シャルラッハ殿だ!!恩人の名くらい覚えておけっ!!」

「組織的な協力を得られたことは本当に大きなことだ。何か礼でも出来れば良いのだが……」

「ならさ、うちに呼ぼうよ!ボクがご飯作ってあげるんだ!」

「えーそれめぐしかお礼できないやつじゃん〜!!あたしたちもなんか考えとこー!!」

 

リビングには、この場には居ない人物への感謝を飛び交い続けた。

 

シルファナの先輩だというシャルラッハという女性アークス。相当な実力と実績を持ち、これらのアークスとしての力と共に、アークスの管理官たちを納得させることができる程の巧みな話術で最悪の事態を回避することが出来たのだ。

決め手は、この言葉。

 

ーー「彼女がひとりでそんなものを作り出したとは思えない。となれば協力した人物か組織があるはず。彼女をその場で始末してしまえばそれらへの手がかりが失われる。まずは彼女を味方につけるべきだ」

 

メイたちはこの時のことを思い返しては、「カッコよかったよなー!!」などとはしゃいでいた。

 

一通り大騒ぎを終えると、今日の過ごし方の話になった。

 

「アークス全体から協力してもらえることになったんだし、少しは気を抜いてもいいんじゃない?」

「そりゃそーだけどさー。なんか動いてないと落ち着かないし!!あたしはてきとーに出るわ!」

「ワタシもまだアークスクエストをやりきっておらん。こういう時こそこなしておくべきだ!」

「2人とも真面目だなー。じゃああっくん、ボクらはデートに……」

「これ……そのようなことを言うとまた」

「こらああああめぐ!!!!またそーやって父上にベタベタとおおお!!!」

 

今度は違う方向で騒がしくなってしまったリビング。しかしそれも程なくして、皆思い思いの場所へ出掛けていき、静まり返ったのだった。

 

 

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メイは、「海岸探索」に来ていた。

のんびりするなら、この美しい惑星の探索がもってこい。それに、ヴィエンタやシルファナと所縁のある惑星という愛着のようなものもあった。

 

「おー!!良い日差し!!相変わらずここは良いところだなー!!」

 

気候の心地よさに、思わず誰に向けるでもない声を放つ。しかし、そう呑気にしてはいられなかった。この声に釣られた海王種たちがたちまちメイの周りに群がり、行く手を阻んでいた。

 

「うわ、なんか寄ってきた!!やんのかあ~??おらあ~??」

 

楽しいところを邪魔されてもなお、ニコニコしながらツインダガーの柄に手を掛ける。襲い掛かられれば、身を守るための反撃は辞さないーーアークスになったばかりの頃とは違い、このことも弁えつつあった。

海王種たちの出方を伺っていると、不意に少女の声が聞こえて来た。

 

「メイさ~ん!!」

 

その声の主は、青髪の少女ーーフィリアだった。以前、メイが凍土で迷子になったときに応援に駆け付けたアークスの1人だ。

銃剣ーーノクスシュディクスを構えて走り寄り、アディションバレットで海王種たちを威嚇する。しかし、はたと思い立った顔で銃剣を剣形態へと変化させ。

 

「そ、それっ、トライインパクト!!」

 

フィリアの放ったそれは、確実に海王種の1体、トルボズンを貫いた。しかし、死角からはアクルプスが2体、長い背びれを立たせ突進してきていた。

 

「くっ、れ、レイジダンス!!」

 

咄嗟に放った無数の斬撃は何発か命中するも、致命傷には至らず。アクルプスの勢いは止まらなかった。

苦戦するフィリアを見て、メイはツインダガーを抜く。

 

「おいおい大丈夫ー?それそれいくぞー!!」

 

メイは身軽にアクルプスとの間合いを詰め、ワイルドラプソディで2体まとめて切り裂いた。

一息つくと、メイはフィリアのもとへ駆け寄った。フィリアはメイの動きに「すごい……!!」と感嘆を漏らしていた。

 

「あんたはこの前のー!!」

「あ、はい!!フィリアです!!メイさんに用事があって…」

 

一体何の用事だろうか。

彼女にはこちらのことは何も話していないからそのことだとは思えない。見当がつかないので、一度考えることは置いておく。

 

「用事かー!!でもまずはこいつら仕留めてからだねー!!」

 

まだメイたちを取り囲み、敵意を向ける海王種たち。メイは武器をダブルセイバーに持ち替え、トルネードダンスで彼らの渦中へ突っ込む。この猛攻の前に、海王種たちは残らず散っていった。

 

周囲に敵の気配が無いことを確認すると、メイはダブルセイバーを納めて「ふぅー!!おとといきやがれー!!」とまた何に向けるでもなく言い放った。そんなメイに、そろそろと歩み寄るフィリア。

 

「あ、あの…ありがとうございます!!ごめんなさい、助けるつもりだったのに…」

 

お礼の声は大きかったが、そのあとすぐ申し訳なさそうに目線を下げてしまった。当のメイは何も謝られることはないのにと思いながら、気になっていた「用事」について尋ねる。

 

「別にいいってー!!それより、どうしたってあたしに用事ができるのさー?」

「そ、それは……!!」

 

少しの言い澱み。何事かと首を傾げているうちに、フィリアは大きく息を吸い込んでーー

 

「わたしを…メイさんの弟子にしてください!!!!」

 

と、頭を下げた。

 

「おー…おお?」

 

予想だにしなかった申し出に、さしものメイも曖昧な返事をしながら目を丸くした。

弟子を持つこと自体は悪いことではない。人に何かを教えたことはないが、まあきっとどうにかなるだろうと気軽に構えられた。問題はそれよりも、近しくなればなるほどこちらのいざこざに巻き込んでしまうだろうこと。

フィリアはなお頭を下げたまま。きっとこの間、ひどく緊張しているのだろうーー。

 

「……いーよっ!!あたしに教えられるもんなら色々教えたげるよー!!」

 

結局、無下にはできずフィリアの願いを受け入れた。

 

「!!ありがとうございますっ!」

 

メイの良い返事に、フィリアへぱっと笑顔を咲かせて顔を上げた。

……このすぐ後、メイから悲惨すぎる教えを受けるとは露とも知ることはなかった。

 

 

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あれから数十分後。

 

「あたしはさ!!こう、くるくるっとして……どかーんって感じなわけ!!」

「くるっとして……どかーん?」

「違う違うー!!くるくるっと!!あーでもあんたの場合はしゅばばばばば!!の方が……」

「は、はぁ……」

 

メイは決して、適当にやっている訳ではない。ただ、言葉による説明が壊滅的だった。ニコニコしながら力説するも、フィリアは当然訳がわからず微妙な反応しか出来ない。

 

「え、ええ~っと、難しいんですね……!!」

「んー?そうかなー?」

 

苦し紛れに言葉を返すフィリアの心境など何処吹く風。この上、はたと思い出したかのように話を方向転換させた。

 

「あ、でもさー!!」

「でも……?」

「楽しむことが大事なんじゃないのー!!」

 

メイにとって、これは修行に限らずあらゆる物事へ言えることだった。嫌々でやっても辛いだけ。楽しく、そして笑いながら何事も運んだ方が上手くいくし、辛くないーー。

予想していなかった言葉に、フィリアはまた疑問符を浮かべた。

 

「えっ、楽しむ……ですか?」

「そうそう!!楽しくなきゃ上手にならないでしょー!!」

「そういう……ものでしょうか……」

 

そう話しているうちに、リューダソーサラーを先頭にブリュンダールの群れがこちらにやってきていた。2人は会話を続けながらそれぞれ武器を構える。

「楽しく」ーーこの言葉は、少なからずフィリアの心に届いてくれたようで。

 

「楽しく……楽しく……やってみます!!」

 

フィリアはそう言って、ダーカーたちへ向かって駆け出していった。メイもまた、フィリア決心に笑顔を咲かせながらその後ろに続く。

先手はフィリア。標的はブリュンダールのうち1体。シュトレツヴァイで的確にコアを斬りつけ撃破。すぐに銃剣を銃形態へ。高速でばら撒かれた銃弾に、残りのブリュンダールたちもたまらず吹き飛んだ。

 

「いーねいーね!!カッコいいぞ〜!!」

 

先程よりも余裕を持った攻勢のフィリアをメイは明るく応援した。同時に、目の端でフィリアに向かって鎌を振り上げ接近するリューダソーサラーを捉えていた。

 

「おおっと!!頑張ってる愛弟子の邪魔をしないでもらおうかー!!」

 

メイは即座にレイジングワルツでリューダソーサラーを打ち上げ、身動きの取れなくなったそれにクイックマーチ、オウルケストラー、シンフォニックドライブ、と次々フォトンアーツを叩き込んでいく。鎌はフィリアどころかメイに届くことも叶わず、リューダソーサラーは霧散していった。

 

フィリアの戦いも優勢のままのようだった。

 

「これで終わりです…クライゼンシュラーク!!」

 

残りのブリュンダールに挟撃される形となっていたが、銃弾と斬撃を代わる代わる撃ち込み、それらはまた確実に2体ともを仕留めたのであった。

 

「で、できた……!!」

 

肩で息をしながらも嬉しさに溢れた表情のフィリアを見て、メイも我が事のように喜んだ。

 

「おー!!やるじゃんやるじゃん!!元々撃つの上手いし、それだけできれば大丈夫さー!!」

 

メイはフィリアの頭をぽんと叩いて激励した。互いに笑顔が溢れ、まさに「楽しく」。意気揚々としていたところに、もうひとつの異変が起きた。

 

「…あれ?あの高波、なんでしょう…?」

「おー?どれどれー??」

 

フィリアに示された海面を見ると、明らかに不自然な高波がこちらに迫って来ているのが見えた。それは砂浜の近くまで来ると大きく飛沫を上げ、巨大な海王種が飛び出してきた。

 

「お、オルグブラン……!?」

「ほー、めっちゃでかいなー!!」

 

驚きを隠せないフィリアとは裏腹に、メイは笑顔のままオルグブランの巨体を見上げていた。

 

「あ、あの…どうしましょう…!?」

 

フィリアの問いに、メイは当然のように、

 

「決まってんじゃーん!!こいつやる気満々の目してるし、あたしもやる気満々だよー!!」

 

と答え、ツインダガーに手を掛けた。立ち向かわなければ、こちらがやられるだけ。

 

「あ、やっぱりそうですよね…」

 

フィリアは少し肩を落としながら呟きながらも、銃剣を構えた。

 

此度の先攻はメイ。

 

「おらー!!行くぞー!!!」

 

オルグブランとの間合いを素早く詰め、得意のレイジングワルツをお見舞いする。そしてその背後からは、フィリアがエイミングショットを放ち、同時に走り出していた。オルグブランがメイに気を取られているうちに、死角へと回り込み。

 

「これでどうです!!エインラケーテン!!」

 

放たれた斬撃はオルグブランの腹を裂き、追い撃ちと言わんばかりに続けて弾丸がオルグブランの腹を撃ち抜いた。不意を突かれ、突然の痛みに思わずひっくり返るオルグブラン。

 

「今です!!」

「よしゃー!!行くよフィリアー!!」

「はい!!」

 

そこへ、2人がそれぞれトドメのフォトンアーツを放った。

フィリアはクライゼンシュラーク。メイはワイルドラプソディ、オウルケストラー。息の合った怒涛の連撃を前に、オルグブランは砂浜での最期を余儀なくされた。

 

 

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数十分後、キャンプシップ。

 

「ははは!フィリア、あんたやるじゃないか~!!」

「あ、ありがとうございます!!わたしもあんなに上手く行くとは思わなくて……!!」

 

メイはフィリアの持つ強さを率直に讃えた。ここまで出来るのなら、自分の元でなくとも心強い仲間たちの元で十分強くなれるのではないか。そう思っていると。

 

「あ、あの…お願いがあるんですけど……!!」

 

照れと緊張が混ざったような表情のフィリアが、こちらを見据えていた。

 

「ええっと……その……」

「んー??」

 

笑顔のまま首を傾げていると。

 

「あの、メイさんが使ってるツインダガーって、私にも使えないかなって……思ったんですけど……!!」

 

なるほど、もしかしてこれが目的だったのかーーそういうことなら確かに、自分を頼って来るのも分かる。ここでもまた、無下にできる筈もなく。

 

「あーこれかい!?こんなの簡単さー!!すぐにできるようになるよー!!」

「ほ、本当ですか!?」

 

ここで断って、落ち込む顔を見たくはない。そんな思いもあり、フィリアの願いを快諾した。

 

大抵こうして、人との距離感を間違える。巻き込まないように、踏み入れさせないようにと思っていても上手くいった試しがなかった。

 

(なんだかな〜……、……でも)

 

フィリアの嬉しそうな笑顔。

ここまできたら、彼女の期待に応えて、ずっとこうして笑っていて貰いたいとも思ったのだった。

 

2人を乗せた賑やかなキャンプシップは、早速次の修行場ーーもとい、任務地へと向かっていった。