悪意の顕現

『アイラク!アイラク!ねえねえ!起きてってば!』
「……んああ!うるさいのっ!!なに……、!?」

思念体のしつこい呼び声に、不快な目覚めを余儀なくされたアイラクは、苛立ちのまま布団を跳ね除けた。そして、目の前の信じ難い光景に思わずベッドの上を後ずさった。

『見て見て!やっと外の世界に近付けた!ふふふ、すごいすごい!好きなように世界を見渡せる!』
「……どうして……」

自分の中にいたはずの思念体が、幽霊の少年の姿で目の前をふわふわと飛び回っている。これは一体どういうことなのか。

『お前の中で、フォトンとやらについて色々学んだのさ。そしたら、こんなこともできるって分かったんでね。試しにフォトンを使って外に出てみたんだ!』

楽しそうに笑いながら、部屋の中やベランダを好き勝手飛び回る。アイラクは呆然とその姿を目で追っていた。そして、はたと重大なことに気付く。

「も、もしかしてそれって、わたしいがいのひとにも、みえるの!?」
『そうなるねぇ。勿論声も聞こえるよぉ!けけけっ!!』
「ま、まって!!」

悪巧みの表情を浮かべて、アイラクの部屋の壁をすり抜けてリビングへ。さらにその先の、同居人の部屋へーー辿り着く前に、騒ぎに気付いた部屋の主がドアを開けた。

「どうした、何事だ……、!?」

その部屋の主 ルヤンは、アイラクの頭上でくるくると遊びまわる白い少年に気付き、思わず眼を見張る。そして少年と目が合った。

『お前はルヤンでしょ?よーく知ってるよぉ。けけっ!』
「……アイラク、全く事情が分からないんだが」
「うう……あのね、いつもはなしてた、あたまのなかではなしかけてくる、おとこのこ……そとに、でてきちゃったの……」
「何……!?そんなことが可能だと……」
『可能だからここにいるんじゃないか。ふふ、フォトン様様だねぇ』

ルヤンはなんとか事情を飲み込み、とりあえず事無きを得た。しかし、マイルームの外でもこの状態では絶対に騒ぎになる。言って聞くかは分からないが、一応思念体に釘を刺した。

「おへやのそとで、おそとにでちゃいけないの!ぜったいなの!!」
『ええ??なんだよ〜せっかく外の世界を巡るのを楽しみにしてたのに』
「騒ぎになって追い回されるのも癪だろう。大人しくしていた方が身のためだぞ」
『ちぇ。……善処するよぉ』

この善処が、どこまで信用できるやら。アイラクとルヤンの不安は当分続くのであった。






『この姿がダメなら……フォトンについてもっともっと学んで、いつか僕の身体を……!』