【ライアとリアン】銀世界の邂逅

アークスシップ ゲートエリア。
その一角で、そわそわと落ち着きなくあたりを見回しながら歩く少年が1人。

「んー、誰がいいかな……」

新人アークス リアンは、誰かの任務にこっそりついていき、その仕事ぶりや技を盗もうと画策していた。まだアークスになって日が浅い彼には、気軽に誘える相手というものが居なかったからだ。心当たりの知り合いならば居るには居るが、生憎任務に出かけていた。

「……あ」

クエストカウンターで、手早く任務の手続きをする女性のアークスが1人。見れば、リアンと同じブレイバーのようだ。

「決めた、あの人についていこう……」

リアンは目当てのアークスがキャンプシップ搭乗口へ歩き出したと同時に、足早にクエストカウンターへ向かう。受付に、先程の女性と同じ任務を、と頼むと、リアンもキャンプシップ搭乗口へと向かった。





受けた任務は、凍土探索。リアンはベルディアコートに身を包み、寒さを凌ぎながら女性アークスの後をつける。
雪のように白い髪に、白い甲冑のような装束。そして携える弓も白かった。この銀世界の中では少し目を離すと見失いそうになる。リアンは目を凝らしていた。

「!敵だ……!」

雪の中から、ナベリウス原生種が飛び出し、女性アークスの行く手を阻む。女性アークスは立ち止まり、原生種の一団にトレンシャルアロウを放った。無慈悲なフォトンの矢の雨に為すすべもなく、原生種たちは蜂の巣になっていった。これで全て片付いたかと思われたが……

「!!」

突如、女性アークスの背後の雪が盛り上がり、巨大な影が飛び出した。縄張りを荒らされて怒ったキングイエーデだ。どうやら雪ごと女性アークスを吹き飛ばしたーー『つもり』だったらしい。女性アークスはいつの間にかキングイエーデの背後に回り、弓からカタナに持ち替え弱点の尻尾にグレンテッセンを放った。そして、このたった一撃のもとに、あの巨大なキングイエーデを地に倒れ伏させたのだった。とどめにアサギリレンダンが放たれ、キングイエーデの巨体は、原型を留めない程に斬り刻まれていった。

「す、すごい……」

一連の攻撃はまさに神速。リアンは一瞬の出来事に呆気にとられていた。

「……あれっ?」

いつの間にか、女性アークスはその場から消えてしまっていた。見失ってしまったか。そう思い、辺りを見回そうとしたとき。

「私についてくるなんて物好きな坊やねえ?」
「っ!!??うわあ!!」

消えた女性アークスは、なんとリアンの背後で薄く笑みを浮かべて佇んでいたのだ。リアンは驚きのあまり背中から転げ、地面の雪に埋もれてしまった。恐る恐る顔を上げると、女性アークスは接近し、しゃがみ込んで、面白そうにリアンを見下ろしていた。

「ドジなのね〜?気配の消し方だってなってないし……新人さんかしらぁ?」
「え!?あ、は、はいっ!!」
「そう。せいぜい頑張ることね〜」

そのままリアンを放置して立ち去ろうとする女性アークス。リアンは慌てて雪を掻き分けて身体を起こし、駆け寄った。

「あのっ!!」
「何かしらぁ?」
「その……お姉さんに、ついてっていいですか!!」
「……」

リアンはがばっと頭を下げ、懇願する。リアンからは見えていないが、女性アークスは切れ長の目を丸くするほど意外そうな表情をし、そして。

「……っふ、あははははっ!貴方みたいなヒト初めてよぉ〜!まあ、新人さんだし私のコト知らないんだろうけどぉ……ふふっ」
「??あ、あの……!」
「ああ、別についてくるのは構わないわよ〜。ただし巻き込まれても文句言わないで頂戴ねぇ?」

女性アークスは心底可笑しそうに笑った後、リアンの願いを飲んだ。そして、リアンが顔を上げるのを待たずして、先へと歩を進めていった。

「あっありが……って、ま、待って!!」

リアンは雪に足を取られながら、女性アークスの後をついていった。





その後、リアンも隙を見て加勢しようと窺っていたが、そんな暇もなく女性アークスがことごとくエネミーを葬り去っていた。カタナと弓を巧みに使い分け、無駄なく、無傷で、ついに最深部まで辿り着いてしまったのだった。

「ほ、ほんとについてくことしか出来なかった……」
「最初からそのつもりだったんでしょ〜?ならいいじゃないの〜」
「う……はい」

女性アークスは一言告げると、この雪山の主が待つエリアへのテレポーターへと消えていった。リアンも慌てて後を追った。





最深部で待っていたのは、つがいの大型原生種「スノウバンサー」「スノウバンシー」だった。

「お、おっきい……」

高台の上から2人を見下ろす獣たちを見て、リアンは率直な感想をこぼした。そして、つがいのうちの1匹ーー雌のスノウバンシーが高台から飛び降り、2人を圧倒するように咆哮した。

「うわっ、来た!」
「邪魔よぉ」

驚くリアンを押しのけ、前に出る女性アークス。弓を引き、スノウバンシーへと矢先を向けるが、スノウバンシーは左右に跳ね回りながら間合いを詰めてくる。これでは狙いが定まらない、と思われたが……。

「そんなことで私を撒けると思ってるのぉ〜?」

女性アークスは、スノウバンシーの着地位置を予測し、ペレネイトアロウを放った。貫通性のあるその矢は着地した前足の両方を正確に射抜き、爪を砕いたのだった。次にカタナに持ち替え、バランスを崩して転倒したスノウバンシーへグレンテッセンで迫る。抜き放った刃はスノウバンシーの顔面を一文字に斬り裂き、続いて放たれた目にも留まらぬアサギリレンダンで頭を『吹き飛ばした』。
頭は最早原型を留めず、その巨体は2度と立ち上がることはなかった。

「は、速い……」

リアンはただただ、女性アークスの戦闘を眺めることしか出来なかった。しかし。

「……僕も、僕も戦わないと……!」

このままではいけない。意を決し、リアンは最後の1匹ーースノウバンサーの前へ躍り出た。

「やああっ!!」

リアンはスノウバンサーへ向けてグレンテッセンを放つ。渾身の一撃は右前足の爪に直撃するも、砕くまでには至らなかった。スノウバンサーはリアンを払いのけようと、左前足を振るう。

「うわっ……!」

ガードを試みようと、刀身を身体の前で構えたとき、目前すれすれを何かが高速で通り過ぎていった。それはスノウバンサーの左前足を射抜いていた。

「!!お、お姉さん!」

女性アークスの放ったペレネイトアロウだ。女性アークスはリアンの叫びを意に介さず、怯んだスノウバンサーの胴体に接近してサクラエンドを放った。刃の軌跡が過ぎ去ったかと思えば、スノウバンサーの胴体はその軌跡に沿って解体されていた。
物言わぬ肉塊と化したスノウバンサーを見下ろし、女性アークスは伸びをした。

「んー、こんなものかしらぁ。手緩いわねえ〜」

その後、立ち尽くすリアンを横目で見ながら、

「度胸はあるのねぇ〜。男の子らしくて良いじゃないのぉ」

と言って、キャンプシップへのテレポーターへと歩いていった。

「へ!?あ、ありがとうございます……って、待って!!」

リアンは慌てて後続し、共にテレポーターへと消えていった。





キャンプシップは無事にアークスシップへと到着した。リアンは相変わらず女性アークスの後ろをついていきながら、今後について思案していた。

(僕と同じブレイバーで、あんなに強くて……)

女性アークスの背中を神妙な面持ちで見つめる。

(この人といれば、僕も強くなれるかな……?)

ロビーで報告を済ませた後、早々に立ち去ろうとする女性アークスをリアンが引き止めた。

「あの!!」
「……なぁに?もう任務は終わったじゃないのぉ」

少し不満げな表情で振り向く女性アークス。リアンは彼女の目をしっかり捉える。

「こ、これからも、任務についていっていいですかっ!!」

勇気を出して放った一言。当の女性アークスは目を丸くし、凍土のときと同じように笑い出した。

「……ふふふふっ……あはははははは!!貴方正気かしらぁ〜??」
「しょ、正気です!!どうして笑うんですか!!」
「ふふっ……好きなようにしたらぁ〜?ただし足手纏いになったら殺すわよぉ〜」
「っ!!は、はいっ!!」

結局、女性アークスの笑いの理由は分からないまま、リアンは女性アークスの後ろをついて回るのだった。

「あ……ぼ、僕はリアンっていいます!よろしくお願いします!」
「ふう〜ん。私はライアよぉ。よろしくする気は無いけれど〜」
「ライア……姉さん……!よろしくお願いします!」
「それ2回目よ〜」
「あっ……」

一見、和気藹々とした会話。しかし、この間ライアは一度もリアンの方を振り向いていなかった。リアンは、いずれライアに振り向いて貰えるよう、認めてもらえるよう、強くなろうと心に決めたのだった。