5.襲撃

アークスシップ市街地。
普段は多くの住人で賑わう街が、今は変わり果てた姿になっていた。一部倒壊したビル、陥没した道路、破壊された車、そして、怪我をして彷徨う住人、すでに生き絶えて倒れている住人……。

「ひどい、の……」
「ちっ、予想以上だな……。ここもさっきのチーム分けで動こう。散開した方が効率よさそうだ」
「はーい」
「分かった!アイラクちゃん、行こうか!」
「うんっ!」

市街地の惨状を目の当たりにし、即動き出す4人。これ以上の被害は出すまいと、それぞれ心に誓ったのだった。




アイラクはダーカー撃退、テトラはアイラクがダーカーを引きつける間に救護と誘導。
2人はこの作戦で、なんとか戦闘と救助を行なっていた。しかし、ダーカーの勢いはとどまるところを知らず、幾度も2人に襲い掛かってきた。

「かずが、おおいの!」
「ほんとだよ……そろそろ疲れてきた……」

アイラクはともかく、テトラは明らかに疲労していた。だがそこにも、容赦なくダーカーは現れる。前方から迫る黒い群れに、テトラは落胆の声を上げた。

「嘘でしょ……」
「テトラ、まわりにひと、いないから、とおくからえんご、してほしいの!それならあまりうごかなくても、だいじょうぶだとおもうの!」
「わ、分かった。気を遣ってくれてありがとうね……よし」

テトラは跳び退り、銃を構えた。アイラクの背後から不意打ちを仕掛けようとするダーカーや、連携を取るダーカーを撃ち抜いていく。順調かと思われた作戦だが、それは突然鳴り響いた激しい警報音と同時に瓦解してしまう。

「な、何の音……って、ええ!?」
「あれっ!?テトラ、テトラ!」

なんと、非常用の防護壁が誤作動を起こし、アイラクとテトラが分断されてしまったのだ。この防護壁のシステムの一部も、ダーカーによって破壊されたか乗っ取られてしまったらしい。

「囲まれたのは僕みたいだね……。アイラクちゃんは先に行ってて!頑張って追い付くから!」
「う……わ、わかったの……きをつけて、なの!!」

この状況では残っていても何も出来ない。アイラクはテトラの無事を祈りつつ、先へ進んで行った。

大通りを突き当たり、左右の分かれ道。どちらへ進もうかとそれぞれを見回すと、左の道の先にダーカーの群れを見つけた。不自然に道路脇に固まり、何かを囲んでいるように見える。

「まさか……!」

アイラクは人が襲われていると確信し、群れまでグランヴェイヴで一直線に飛んでいく。群れが間近に迫ったときには、血まみれで横たわっている女性に鎌を振り下ろそうとしているプレディカーダが見えた。

「させないのおおお!!!」

アイラクは叫びながら、群れの一部を巻き込み、プレディカーダを蹴り飛ばす。プレディカーダと巻き込まれたダーカーはことごとく霧散していった。突然の襲撃に驚いた残りのダーカーたちの隙を逃さず、モーメントゲイルでまとめて消し飛ばした。
周囲にダーカーの気配が無いことを確認すると、アイラクは倒れている女性に駆け寄った。

「だいじょうぶ、ですか!?」
「……う……」

全身を引き裂かれ、どう見ても命に関わる重傷だったが、まだ意識はあるようだった。かすかに呻き声を上げ、女性はアイラクを見上げた。

「!よかった、いまから、メディカルセンターに、てんそうしてもらうから、まってて!なの!」

アイラクはそう言うと、女性にレスタをかけて応急処置を施し、端末から怪我人の転送を要請した。

「いっしょに、いきたいけど、まだダーカーたいじをしなきゃ、いけないの。でも、むこうで、メディカルセンターのひとが、まってるから、だいじょうぶ。きっと、なおるの!」
「……あり、が、とう……」

女性は掠れた声で礼を告げ、現れたテレポーターによって転送されていった。アイラクはそれを見届けると、踵を返して残りのダーカーの殲滅へと赴いた。




ダーカーの気配が次第に薄れ始め、ようやく事の収束が見えてきた頃、アイラクもダーカーを探すことより怪我人の救護を優先的に行なっていた。

「これで、なんとか、おさまってくれたら、いいけど……」

しかし、ダーカーも黙って引き下がりはしなかった。突如上空に巨大なダーカー因子の渦が現れ、その中から1体の巨大ダーカーが生まれ出る。轟音を立てて着地したそれは、咆哮と共に周囲に黒い雷を落とした。

「あわっ!?も、もしかしてこいつが、おやだまなの!」

その巨大ダーカー……ダーク・ラグネは、多くの手駒を屠った目の前のアークスに、両腕を振るった。アイラクはジェットブーツで飛び上がって回避すると、そのまま背後へと回り、後ろ足へグランヴェイヴを放つ。一瞬ぐらついたダーク・ラグネだったが、転倒させるには至らない。攻撃後に動きを止めたアイラクの身体に、足払いが叩き付けられた。

「きゃあっ!!」

大きく吹き飛ばされ、地面に転げるアイラク。なんとか起き上がるが、両腕を大きく広げたダーク・ラグネの巨体はすでに目前に迫っていた。

「っ……」

回避は間に合わず、思わず身を強張らせたとき。

「ーーアイラクちゃああああん!!!」

馴染みのある声が叫ぶのと同時に、ダーク・ラグネの脚をフォトンの弾が撃ち抜く。アイラクが先程攻撃を加えた脚に追い討ちをかけられ、今度こそダーク・ラグネは大きく体勢を崩した。

「テトラ、テトラなの!!ぶじ、だったんだね!」
「何とかね!それより今がチャンスだよ、頭の後ろのコアを狙って!」

正面からでは兜のような頭に隠れて見えなかったが、確かに後頭部にコアが見えた。アイラクはコア目掛けて渾身のグランヴェイヴを放った。

「やああああああーッ!!!」

何度も何度もコアを蹴り潰す。最後の蹴りを放ち、アイラクは地面に着地した。しかし、ダーク・ラグネにとどめを刺すには至らず、ゆっくりと身体を起こし、憎らしくアイラクを見下ろした。

「!!だ、だめなの!!」
「でも致命傷にはなってるみたいだよ。ほら、ふらふらしてる!」

テトラの言う通り、ダーク・ラグネの足取りは覚束ないものになっていた。先程撃ち抜かれた脚を引きずり、コアのダメージからか苦しげに唸っている。

「ーーやっと見つけたぞ、親玉さんッ!!」

ダーク・ラグネに追撃を仕掛けようとしたとき、高速でダーク・ラグネの足元をすり抜ける人影があった。ダーク・ラグネはその人影によって前足の一本を切り落とされ、身体を大きく傾かせた。

「キオ!キオなの!!」
「ーー私もいるっての!!」

アイラクの歓喜の声の後、キオとともにやってきたルーが、もう片方の前足にラ・グランツを放った。弱点である光のフォトンの槍が脚を貫き、前足が両方とも使い物にならなくなったダーク・ラグネは身体を大きく前傾させざるを得なくなった。
今ならとどめを刺せる。アイラクは再び、ダーク・ラグネのコア目掛けてグランヴェイヴを放った。

「これでっ……!!!」

連撃の最後、ありったけのフォトンを込めてコアに叩き込む。今度こそ完全にコアを潰され、ダーク・ラグネは虚しく身体を四散させていった。

「や、やったあっ!!やったのー!!」
「ふう……良かった、3人ののお陰で素早く倒せた……有難う」
「そりゃあ、巨大なダーカーの反応の近くにお前たちがいたら助太刀するしかないだろ?」
「あんたたちなら大丈夫だとは思ってたけど……まあ、無事で良かったんじゃないの」

4人は勝利のハイタッチを交わす。程なくして、オペレーターよりダーカー反応の急速な減少、消滅が知らされた。多数のアークスたちによって数を減らされた挙句、司令塔まで失ったダーカーたちは、とうとう引き退っていったのだった。





ロビーに帰還すると、任務中にはあまり自覚していなかった大きな疲労感が4人を襲った。さしものアイラクも、大きなため息をついて上半身を脱力させていた。

「アムドゥスキア調査の後にダーカー共との交戦、それに救助……今日はハードだったな」
「ほんと……帰ったらすぐ寝よう……」
「私もお風呂入りたーい」
「うん、つかれたのー……」

4人はそうして早々に解散し、各々のマイルームへと帰っていった。

アイラクは眠い目を擦りながら部屋着に着替え、ベッドに潜り込む。

(きょうは、いろんなことが、あったの)

アムドゥスキアでの任務、市街地での戦い、それぞれの様子が目まぐるしく頭の中を駆け巡る。そんな中に、どうしてもハッキリと印象に残り、忘れられない存在があった。

(あの、りゅうさん……、どうして、しってるんだろう……)

自然とアイラクの頭は、アムドゥスキアで出会った奇妙な龍で一杯になる。
そのまま目を閉じると、急激に意識は闇の底へと落ちていき、深い眠りについてしまったのだった。