本編第4話です。
ゲーム内のNPCが出てくる・EP1の内容が若干絡んできます。それぞれ苦手な方・ネタバレを警戒する方はご注意ください。
アムドゥスキアでの調査を終えた次の日、アイラクは再びかの惑星への調査へ向かうことにした。今度は、仲間も誘って。
「よう、俺達に頼みってなんだ?」
「面倒事は嫌よ?」
「そ、そんなこと言っちゃだめだよ……」
キオ、ルー、テトラは相変わらずの様子でアイラクの返事を待つ。
「あの、あのね、いっしょに、アムドゥスキアに、いってほしいの。りゅうぞくさんを、いっしょに、たすけてほしいの」
「お、そういうことならお安い御用だ。アークスたる者、惑星の危機は放っておけないからな!」
「でも、助けるってどうやるのよ?」
「えっとね、」
アイラクは、ロガの内に巣食うダーカー因子をフォトンの力で浄化できたことを伝え、これを小型の龍族にも手分けして行いたいと3人に願い出たのだった。
「成る程な。けど、小型の龍族じゃそのロガって奴みたいにはいかないんじゃないのか?」
「ちゃんと、てかげんして、きずは、レスタでなおしてあげるの。そうすれば、きっとだいじょうぶ!……たぶん」
「曖昧なのね。まあ、やってみる価値はあるかしら」
「そう、だね。やれる事はやってみなくちゃ」
「よし、そうと決まれば早速出発だ。いくぞ!」
「うんっ!」
「はーい」
「了解!」
こうして、4人はアムドゥスキアへ向かった。
今回の目的地は、火山洞窟ではなく浮遊大陸。違う地域の調査も兼ねての選択だった。アイラク、キオ、ルーは涼しい顔で降り立ち、その広大で幻想的な風景に目を奪われるが
、テトラは一人縮こまっている。
「て、テトラ、だいじょうぶ、なの?」
「だっだだだ大丈夫……ちょっと高いとこが無理なだけで……」
「わっ!!」
「ぎゃあ!!」
高所恐怖症らしい彼を、ルーが驚かした。テトラは案の定、心底驚いて大きく飛び上がった。
その隣では、テトラから目を離したアイラクが浮遊大陸の風景をぐるりと眺めていた。
(ここも、おぼえてる、きがするの)
火山洞窟のときと同じく、この地の空気や風景は、微かに覚えているらしい。アムドゥスキアのことだけ、どうしてこんなに懐かしく感じるのだろうーー
「アイラク、どうした?」
「……へっ!?な、なんでもないの!」
「そうか?ならいいんだけど……。じゃあ、先へ行こうか」
考えに耽るアイラクを心配し、声を掛けるキオ。アイラクは数秒遅れて反応し、笑顔で返事をした。
しばらく進むと、さっそく1匹の龍族を遠目に発見した。キオはアイラクにかの龍族の様子を問うた。
「おい、あいつは話ができそうか?侵食されてるか?」
「?あのりゅうぞくさん……。ちょっとまってて!」
「あ、おい!?」
答える前に、アイラクはその龍族のもとへと駆けていく。3人は慌てて後を追った。
「おーいっ!エンさんーっ!わたしなのっ、アイラクなのー!」
〔……?〕〔そなたか〕〔よく来てくれた〕〔歓迎しよう〕
その龍族は、昨日出会ったエンだった。初対面の3人は、突然頭の中に響いてきたエンの声に困惑する。
「い、今のが龍族の言葉なのか……。不思議だな」
「テレパシー的なやつかしら……」
「うわ、うわ、しゃ、喋った……!」
「みんな、こわがらなくて、いいの!エンさんは、やさしいりゅうぞくさんなの!」
動揺する3人に、エンは顔を向けた。3人はかすかに肩を震わせるが、エンは意に介さず続けた。
〔そなたらは〕〔アイラクの友か〕
「お、おお、そうだ!」
〔そうか〕〔ならば信頼できよう〕〔皆この美しい聖地を〕〔堪能していくといい〕
エンは3人にも歓迎の意を示す。エンの言葉に、ほっと胸を撫で下ろした。
「あ、ありがとな!けど、堪能したいところだけど俺達は任務で来てるんだ。侵食されたエンさんの同胞を助けにな」
「そうなの。みんなで、たすけようって、おもったの!」
〔……〕〔ならば〕〔気を付けよ〕〔この地の者は〕〔下の地の者よりも〕〔強い〕
エンはそう忠告し、どこかへと去っていった。しかし、4人はその忠告を聞き、逆に安堵していた。
「つよいってことは、じょうぶなんだよね、じゃあ、もっとしんぱいいらないの!」
「そうだな。ちょっと痛くしても大丈夫そうだ。正直手加減してダーカー因子吹っ飛ばせるもんなのか分からなかったから、こりゃいい」
「やりすぎるんじゃないわよ?」
「それ、ルーが言う……?」
「何よ、加減くらいできるわよ!」
「ひえっ、ごめん!!」
「け、けんかはだめなの!」
アイラクの一声でルーは仕方なく引き下がる。落ち着いたところで、4人は再び歩き出した。
道中で出会う龍族たちは、確かに火山洞窟で出会った者たちよりも屈強だった。そのおかげか、侵食されている小型から中型の龍族たちのダーカー因子の中和も問題なく進める
ことができた。
「うまくいってるの、よかったの!」
「そうだな、ほんとここの龍族たちは丈夫で助かるよ」
この地の龍族たちの強さ自体はさほど問題にはならず、むしろプラスに働いていたのだった。これなら多くの龍族を救えると確信したところで、ルーがとある案を切り出した。
「案外どうにかなりそうだし、もっと沢山助けたいんなら二手に分かれた方が良くない?合流は最深部、何かあったら通信で連絡ってことにしてさ」
「お、それいいな。そうしようぜ!」
「うん、いっぱい、たすけるの!」
「ちょ、ちょっと不安だけど、頑張ろうかな……」
3人はルーの案に賛成し、キオとルー・アイラクとテトラの2チームに分かれた。
アイラクとテトラはエリア2を担当し、キオとルーはエリア1の未踏破部分の調査へと赴いたのだった。
アイラクとテトラのペアは、引き続き問題なく龍族やダーカーの対応を進めていた。基本的にアイラクが前線に立ち、テトラが援護射撃を行うという形を取っていたが、アイラ
クの体力はまるで衰えることを知らなかった。
「なんかごめんね……アイラクちゃんにばっかり任せちゃって……」
「ううん、だいじょうぶ!テトラがいっぱいたすけてくれるから、いいの!」
「そ、そか……」
テトラは照れ臭そうに頭を掻きながら、きゃっきゃとはしゃぐアイラクをまじまじと見つめていた。
(ほんと、元気だなあ……。技の威力も全然落ちないし……力も物凄く強いし……10歳だなんて思えないや……)
最初はただただ凄い、と思って見ていたが、思えば不可解なことが多かった。小さな身体には見合わない体力、フォトン量、攻撃力。そして、データベースを見たときの違和感
。
(1年以上前からアークスだっただろうに、1年以上前にデータベースを見たときにはアイラクちゃんの情報なんてなかった……)
何かがおかしい気がした。テトラはアイラクの背中を見ながら歩き、考えを巡らせていた。
そして、アイラク本人はというと、別の違和感に気を取られていたようだった。
「……このへん、ダーカーのけはいが、ぜんぜんないの」
「……へっ?あ、ああ、でもいないに越したことはないんじゃないかな……?」
アイラクの声で我に返り、テトラも周囲の気配を探る。確かに、今まで感じられていたダーカーの気配が、『ひとつも』感じられなかったのだ。
「でも確かに、突然ぱったり消えるのは怖いな……って、!!」
テトラが急速に接近してくる何かの気配に気付き、身構える。少し遅れて、アイラクも警戒態勢に入った。虚空から巨大な影が、2人の目の前に乱暴に降り立つ。振動と煙を上
げながら現れたそれは。
「っ、何この龍……こんなの見たことないよ……!」
「……」
鋭利な鼻先に、肋骨のような外骨格を持つ身体。不自然に長い手足の先は赤黒く染まり、尻尾の先はフォークのような三叉の刃が備わっている。明らかに異様な龍だった。
「こんなの聞いてないよ……アイラクちゃん、ここはひとまず逃げよう!?」
「……」
「ね、ねえ聞いてる?ちょっと、どうしちゃったの……!?」
アイラクの双眸は、この禍々しい龍に釘付けになっていた。恐怖するでもなく、驚くでもなく、ただ無意識に。龍もアイラクの視線に気づき、捉える。
「あああどうしよう……、!」
混乱の最中、新たなる乱入者が現れる。一切気配を消していた、ダーカー……ダガンの群れだった。
「こんなときに出てこなくてもいいでしょ……!?」
ダガンの群れと龍に挟まれ、行き場を失う2人。先に動いたのは、龍だった。
龍はまっすぐ2人に向かって駆けてくるーーと思いきや、2人を飛び越えダガンの群れへと突っ込んでいった。呆気に取られたテトラだが、油断なく龍の姿を追う。そこには、
目を疑う惨状が繰り広げられていた。
その龍は、ダガンを掴み取り、口の中へ運び、ばりばりと貪り食っていたのだ。そしてすべてのダガンを食らい終えると、龍は2人を一瞥し、どこかへと消えてしまった。
「……た、た、助かっ、た……?」
テトラは周囲を警戒したが、もうダーカーの気配も龍の気配もない。安堵してその場にへたりこみそうになったが、アイラクが気がかりだ。
「アイラクちゃん。アイラクちゃんってば!」
「……はっ!?テトラ!なあに?」
「なあに、じゃないよもう……。変な龍をぼーっと見て動かなかったから心配したんだよ……」
「あ、ああー……ご、ごめんなさい!えっと、もうだいじょうぶだから、いこ!」
「え、ええ?大丈夫ならいいけどさあ……はあ……」
アイラクは何かをはぐらかすようにして、テトラを追い越し駆け出した。
(……あのりゅうさんと、にたようなりゅうさんに、どこかで、あったきが、するの)
頭が少し、痛んだ気がした。
(とてもかなしくて、いらいらしてて、かわいそう。あんなりゅうさんを、いっぱい、たくさん……)
漠然としているが、心の奥底に強く残る何か。最深部へ辿り着くまでの間、それはアイラクの頭をずっと揺るがし続けたのだった。
2人は最深部手前のテレポーターまで辿り着くが、まだキオとルーのペアは来ていないらしい。2人はテレポーター前に腰掛け、待つことにした。
「まだみたいだね……。あの変な龍に襲われなきゃいいけど……」
「……たぶん、だいじょうぶだとおもうの。いっぱいいらいらしてたけど、まだ、わたしたちを、てきだって、おもってなかったの」
「そうなの?確かに襲ってはこなかったけど……。そういえば、急にダーカーを見かけなくなったのって、あの龍がダーカーを食ってたから、だよね……」
「そうだと、おもうの」
「あんな勢いでダーカーなんか食べてたら、すぐ侵食されちゃいそうだよね……って、もうされかけてるのか……」
「ううん、あのりゅうさんは、ダーカーいんしでいらいらしてたんじゃ、ないの」
「え?それって、どういう……」
「そこまでは、わからないの……」
あの龍に出会ってからのアイラクの表情は、影を落としたかのように暗かった。あの龍が抱える複雑な感情を読み取ったが故なのだろうか、とテトラは解釈した。
「ダーカー因子じゃないとなると、あの龍には何ができるだろう……」
「……」
2人の会話はそこで止まる。2人であの龍について悶々と悩んでいた。すると、そこに通信が入り、2人は通信機に向かって返事をした。
「はいっ!あ、キオとルーなの!」
「ああ、2人とも無事だったんだ……よかった」
「勿論さ。今やっとエリア2に入ったから、すぐにそっち向かう。もう少し待っててくれ」
「ったくもう、頑固龍族に捕まって大変ったらありゃしない……。じゃ、切るわーー」
ルーが通信を切ろうとした途端、全員の通信機にけたたましい警報が鳴り響いた。
『緊急警報発令。アークスシップ内にダーカーが侵入。市街地の広範囲に渡り被害が拡大しています。至急、ダーカーの撃退と住民の避難誘導に当たってください』
4人は警報の内容を聞き、青ざめる。
「ど、どうしよう……!」
「任務に来てる僕らにまで通信入るってことは、かなりやばい状況なんじゃ……」
「ちっ、仕方ない。この任務は破棄だ!市街地の救援に向かうぞ!」
「わかったの!」
「了解!」
「おっけー」
4人はやむなく、浮遊大陸の調査を破棄し、アークスシップに舞い戻っていった。
調査で疲弊した身体に鞭を打ち、市街地のダーカー討伐および住人の避難誘導任務へと赴いたのだった。
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