【本編】3.救いの一歩

本編第3話です。

ゲーム内のNPCが出てくる・ゲーム内シナリオのイベントの文言をそのまま使用している箇所がある・シナリオEP1-5章の内容が絡んできます。それぞれ苦手な方・ネタバレを警戒する方はご注意ください。


 

 

朝8時。

先日の夜のセットしたアラームが、けたたましく鳴り響く。アイラクは思わず飛び起き、アラームの端末を手で思い切り払いのけた。

 

「いったあ!……あ、めざまし、とばしちゃったの……」

 

端末にぶつけた手をさすりながら、ベッドから降り、端末を拾いに行く。最悪の目覚めだったが、ひとまずこれで約束の時間には間に合いそうだ。アイラクは端末をベッドの上

 

に置き、いそいそと戦闘服に着替え始めた。

 

8時半。昨日と同じ場所ーーショップエリアの広場前で、アイラクはアキと落ち合った。隣には、見覚えのない顔もいる。

 

「やあ、待っていたよ。……おっと、こっちは助手のライトくんだ」

「アキさん、ライトさん、よろしくおねがいします、なの」

「こんなちっちゃい子がアークス……あっ!いえ、宜しくお願いします!」

 

互いに自己紹介を済ませ、さっそく3人は惑星アムドゥスキア行きのキャンプシップへと赴いた。

 

 

 

 

 

目的地までの間、アキはライトの制止を聞かずにアイラクへの質問攻めを敢行していた。

 

「龍族の感情が読み取れるとは、一体キミは何者なんだい?」

「そんなこと、いわれても……わからないの。なにも、おぼえてないの」

「?……なるほど。データベース上では1年前に大怪我をして眠っていたとあるがそのショックで何もかも忘れてしまっている訳か」

「そう、みたいなの……」

 

まことに残念だ、とため息をつき、それからアキは追及を諦めたようだった。終始あたふたしていたライトも、ようやく落ち着いたらしく、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 

「しかし、少し引っかかるな」

「え?」

「キミは少なくとも1年以上前からアークスだったことになるが、いくらなんでも年齢的に無理がある。特例許可だとしてもだ。……本当に何者なんだろうな?」

「ちょ、ちょっと先生、困ってるからやめてあげましょうよ……」

「……分かったよ。まあ、思い出せないものは仕方あるまい」

 

ライトが割って入り、今度こそ追及をやめたアキ。3人の間に沈黙が流れた。

やっと自我を取り戻してきたというのに、再びアイラクの中に漠然とした不安が生まれる。

 

(ほかのアークスさんたちと、ちがう、のかな……)

 

深く考え込んでしまおうとする矢先、キャンプシップが停止した。どうやら目的地に着いたようだ。アイラクはひとまず悩みを払拭し、アキらとともに火山洞窟へと降り立った

 

 

 

 

 

 

「さて。調査を始める前にキミに聞いておきたいことがある」

「は、はい!」

「キミが感じ取る龍族の『いらいら』は、何が起因しているかの特定はできているかね?」

「た、たぶん、ダーカーいんし、だと、おもうの。いらいらといっしょに、いやなかんじも、するから……」

「ふむ……。龍族は独自にダーカーを撃退できるが、残滓までは払えないということか」

「?」

「塵も積もればなんとやら、というやつさ。しかし、そうと分かれば事は一刻を争うな。先へ急ごう。ああ、キミには道中の龍族の感情を読み、対話が可能と思われる龍族を探

 

して欲しい。不用意に近寄って襲われても敵わんからな」

「あ、それなら、いいりゅうぞくさんが、いるの!」

 

アイラクは、昨日出会ったヴォル・ドラゴンの話をした。

 

「ほう。良い事を聞いた。ならば尚更先を急ごう」

「わかったの!」

 

3人は足早に奥へと進んでいった。

道中で、アイラクはアキの話をゆっくりと消化していき、龍族たちの置かれている状況を理解した。

 

(りゅうぞくさんは、ダーカーをたいじできるけど、のこったいんしが、りゅうぞくさんをいらいらさせてる……)

 

そして、侵食が進むと、昨日の龍族たちのように、見境なく何もかもを襲うようになるーー。

 

(このままだと、りゅうぞくさん、みんなそうなっちゃうの……?)

 

そんなのは嫌だ。

 

アイラクは、アキが事を急ぐ理由も同時に理解し、龍族たちを救うことを決意したのだった。

 

 

 

 

 

道中ですれ違う龍族たちは、ことごとく対話が不可能な者ばかりだった。中には侵食核も有する龍族もおり、侵食がすでに広がり始めていることを示唆していた。中には見るな

 

り襲い掛かってくる者もおり、そのたびに撃退を余儀なくされた。

 

「ダメだあ、やっぱり危険ですよ先生。帰りましょう?」

「だれも、おはなし、できないの。りゅうぞくさんたち、どうなっちゃうの、かな……」

「情けないねライトくんは……。アイラクくんも、絶望するには早すぎるよ。最奥に行けば対話が可能な龍族が待っているのだろう?」

「う、うん……そうだね、まだ、あきらめちゃ、いけないの」

 

ますます足を速める3人。そして、ようやく最奥へと続く道に出たのだが……

 

ーーグオオオオオオオオオオオッ!!

 

地を鳴らす程の咆哮が、洞窟中に鳴り響く。3人は思わず足を止めた。

 

「何だ……?」

「……う、うそ……」

「どうした、アイラクくん。まさか……」

「このこえ、あと、つたわってくる、きもち……ものすごく、いらいらしてるの」

「ちっ、やられたな……急ぐぞ!」

「うん!」

「は、はいぃ!」

 

この咆哮は、昨日のヴォル・ドラゴンのものだった。そして、昨日までは何ともなかったのに、今日になって凶暴化している。昨日わずかに感じたダーカー因子が、一晩でここ

 

まで膨れ上がるものなのだろうか。

その真偽は、ヴォル・ドラゴンを目の前にして明らかになる。

 

「侵食核か。あれのせいで、一気にダーカー因子が流れ込んでいる様だな」

「そんな……!」

「き、来ますよ!」

 

ライトが声を上げると、こちらに気付いたヴォル・ドラゴンが首を向けてくる。まさに口から火を放ち、アイラクたちを焼き払おうとしたそのとき。

 

〔ロガ様!〕

 

何者かの声が、3人の頭の中に響いた。ヴォル・ドラゴンもそれに気付き、標的を声の主へと定めた。その先には、ロッドを手にした2足歩行の龍族。

 

「あれは……おい、彼なら話が通じるんじゃないか?」

「う、うん、あのりゅうぞくさんは、いらいら、してないの。あのりゅうぞくさん……ロガ、さんを……」

 

アイラクが言葉に窮する。アキは問いただそうとしたが、乱入してきた龍族が次の言葉を紡ぎ始めたので、そちらに集中した。

 

〔ロガ様!〕〔静まりください!〕

〔なぜ暴れ〕〔なぜ戦うのです〕〔お答えください!〕〔ロガ様!〕

 

彼の言葉を聞いていたヴォル・ドラゴンーーロガだったが、聴く耳を持たず、同胞に向けて火を放った。幸い軽傷で済んだ様だったが、ロッドの龍族はそれ以上に悲しみをあら

 

わに叫んだ。

 

〔ぐ……ロガ様……〕

〔何故なのです……!〕

 

このままでは、彼が危ない。それに……

アイラクは咄嗟に、ロッドの龍族とロガの間に割って入った。

 

「!こら、早まってはいけない!」

「そ、そうですよ何やってるんですか!戻って!早く!」

 

アイラクは2人の制止を無視し、ロガの目前に立つ。

 

〔アークス……!〕〔そこをどけ!〕

「いやだっ!だって、あなたがあぶないし、それに、どいたら、ロガさんをころすんでしょ!?そんなのおかしいの!」

〔おかしいことは何もない〕

〔ヒ族のロガ様は〕〔我らが標〕〔だが……〕

〔同族を侵す〕〔著しい〕〔掟の侵犯〕〔掟を破りしもの〕〔悉くカッシーナの元へ……〕

 

カッシーナーー龍族に伝わる神話の地獄龍。そこへ送るということは、すなわち殺めることを意味する。アイラクには、この言葉を聞く前から、この龍族がロガを殺そうとして

 

いることを察していたのだ。

 

「だめだよ、そんなの……ふたりとも、たすけたいの」

 

アイラクの言葉に反応したのは、アキだった。

 

「アイラクくん!話を聞きたまえ!あの龍族なら、フォトンの力で撃退すれば間に合うかもしれない。救えるかもしれないんだ!」

 

それを聞いたアイラクが、はっとしてアキへと顔を向けた。

 

「フォトンはダーカー因子を浄化する力がある。知っているだろう?これだけ大型の龍族であれば体力も治癒力も他の龍族の比ではない。もしかしたら……」

 

アイラクは、希望に顔を輝かせた。

 

「……そういうわけだから、すこし、みてて、ほしいの」

〔……〕

 

ロッドの龍族はしばらく考え込んでいたが、大人しく後ろへ引き下がっていった。

 

「ありがとう。ぜったいに、たすけるの!」

 

アイラクはジェットブーツを駆る。アキとライトもアイラクの援護に回った。

 

まずは、ダーカー因子の流入を加速させている侵食核を狙って、グランヴェイヴを放つ。しかし、侵食核が刺さっている場所は頭。近付けば、口から吐き出される灼熱の炎が襲

 

う。なんとか炎は回避し続けるが、一向に侵食核へ決定的なダメージを与えられずにいた。

 

「っ、どうしようっ……」

「アイラクくん、一旦下がりたまえ!」

「!」

 

アキに言われた通り、アイラクはジェットブーツのフォトンを解放して後ろへ飛び下がった。その後すぐに、アキがロガの頭にワンポイントを放つ。少し外殻を破壊され、ロガ

 

はアキに狙いを定めた。そして、いつの間にかアイラクの背後に回っていたライトが、シフタでアイラクを補助する。

 

「今だよ!」

「!わかったの!」

 

ロガがアキに気を取られている隙に、再び侵食核へとグランヴェイヴを放つ。シフタで威力の増幅した蹴撃の前に、侵食核は跡形もなく破壊された。

 

「やったの!」

「まだだよ、完全に浄化しきるまでは攻撃を続けたまえ!そうだな……『いらいら』が完全に収まるまでだ!」

「うん、わかった!……ロガさん、ごめんなさいっ!!」

 

アイラクはロガの感情の動きに注意しつつ、攻撃を続けた。縦横無尽に空中を制するアイラクに、ロガの動きの大きい攻撃はなかなか当たらない。アイラクは攻撃の合間を縫っ

 

て、確実に蹴撃を叩き込んでいく。そして……。

 

〔……グ、ウウ……〕

 

唸り声をあげ、ロガはとうとう地に伏した。同時に、アイラクも着地し、ロガの様子をうかがった。アキとライト、そしてロッドの龍族もアイラクのもとへ駆け寄る。

 

「どうだね?」

「……もう、だいじょうぶ、なの。もう、いらいら、してないの!」

「そうか……無事に成功した様だな。怪我は如何ともし難いが、それは時間が解決するだろう」

 

ほっと胸を撫で下ろす3人。アイラクの言う通り、ロガは先程の咆哮とは比べ物にならないほど穏やかな声で呟いた。

 

〔……これ……は……〕

 

正気を取り戻したロガに、ロッドの龍族も安堵の声を上げた。

 

〔ロガ様!〕

〔正気に戻られましたか!〕

 

そして、ロッドの龍族はアイラクたちにも言葉を投げかけた。

 

〔これが〕〔アークスの力か〕

「おっと、安心するのはまだ早いぞ。キミも気付いているだろう。このような龍族は、すでに多く出現している。これからも、どんどん増えていくだろう。故に……」

 

アキは、まっすぐにロッドの龍族の目を見ながら言った。

 

「話をさせて欲しい。龍族とアークスの間に必要なのは、対話だ」

 

アキの言葉に、アイラクも同調する。

 

「わ、わたしも、そうおもうの……。りゅうぞくさんたちだけじゃ、きっと、かいけつできない、ことだから……。おねがいなの」

〔……〕

 

ロッドの龍族はううむ、と喉を唸らせていたが、やがてゆっくりと口を開く。

 

〔我が名は〕〔ヒのエン〕

〔名を聞こう〕〔アークス〕

 

ロッドの龍族ーーエンは、アイラクたちを認め、名乗ってくれた。アイラクは喜びに花を咲かせ、アキも薄く笑みを浮かべていた。

 

「私の名はアキ。こっちは助手のライト、それに……」

「アイラク、です。よろしくおねがいします、なの!」

〔アークスの子らよ〕〔無礼を詫びる〕〔そして〕〔感謝を〕

〔ロガ様を〕〔救いし力〕〔その恩を〕〔忘れはしない〕

「エンさんも、わたしたちを、しんじてくれて、ありがとう、なの!」

 

こうして、無事2匹の龍族を救い出した一行は、キャンプシップ行きのテレポーターへと足を運んでいった。エンは、3人の姿が消えるまで背中を見送っていた。

 

 

〔あのアイラクというアークス〕〔奇妙なものだ〕

 

〔かすかに〕〔我らと同じ〕〔匂いがした……〕

 

 

 

 

 

アークスシップ・ロビー。

帰還した3人は、報告を終えてから別れの挨拶をしていた。

 

「道中で発見した龍族の遺体から得た組織片の解析をしてみるよ。これで研究も進むだろう。何か分かったら、連絡するよ」

 

アキはそう言うと、ライトとともに足早に研究室へと戻っていった。

 

「うん、ありがとう、アキさん、ライトさんっ!ばいばいっ!」

 

アイラクは大きく手を振って、2人を見送った。一人になったアイラクは、いつになく明るい笑顔でロビーを後にした。

 

(きっと、りゅうぞくさんたちを、たすけるの。がんばるの!)

 

ひそかな意気込みを胸に、アイラクは1日を終えたのだった。