本編第2話です。
ゲーム内のNPCが出てくる・シナリオEP1~EP2前半の内容が絡んできます。それぞれ苦手な方・ネタバレを警戒する方はご注意ください。
「……んー……」
ザウーダン討伐任務から一夜明け、マイルームのベッドでは任務の疲れからの深い眠りから覚めたアイラクが、のそのそと身体を起こしていた。
「ふあ……、……あわ!?」
端末で時刻を確認すると、昼の11時。アイラクは慌てて戦闘服に着替え、マイルームを飛び出した。別段約束がある訳でもないが、たるんでいると思われるかもしれない。復帰早々にそれは避けたかったのだった。
息を切らしながらロビーに辿り着き、早速クエストカウンターへ向かう。新人のうちは行けるクエストが限られていると聞いていたが、アイラクは復帰ということで、恐らく以前に調査の許可を得たのであろう惑星への任務がずらりと並んでいた。
「えっとー……どれが、いいかな……」
しばらく悩んでいたが、気付くと後ろがつかえ始めていたため、慌てて選択した。
「こ、これにするの」
「火山洞窟探索ですね。手続きを致しますので少々お待ちください」
「は、はいっ」
手続きが完了すると、さっそく火山洞窟ーー惑星アムドゥスキア行きのキャンプシップに乗り込んだ。アムドゥスキア上空に辿り着くと、目的地までの間、ガラス窓から眼下に広がる火山地帯を見下ろしていた。
「まっかなのー……」
きっと以前来た事はあるのだろうが、今のアイラクにとっては初めての光景ーー
(でも、ちょっと、しってるきが、するの)
偶然、この場所についてだけかすかに覚えていたのだろうか。そう考えているうちに、キャンプシップは目的地上空へと辿り着いた。キャンプシップが停止すると、アイラクは窓から離れ、テレプールへと飛び込んだ。
降り立ったのは、岩や崖がそそり立ち、真っ赤な溶岩が所々で煮えたぎる地獄を体現したかのような場所だった。火山洞窟なのだから当然だが、その光景と揉まれるような熱気に、アイラクは深く溜息をついた。
「……べつのばしょにすれば、よかったの……」
とはいえ、来てしまったものは仕方がない。アイラクは重い足取りで先へと進んでいった。
しばらくすると、溶岩の中から何かが飛び出してくるのが見えた。この惑星に住む原生生物、龍族だ。その中でも一番小型なディッグが、溶岩から出てせわしなく歩き回っている。
(なん、だろう……。いらいら、してる……?なにかを、さがしてるの?)
普通に歩き回っているだけに見えるディッグたちから、アイラクは微かに感情のようなものを感じ取っていた。龍族は知能を持ち、アークスとも交流していた時期があったことや言語の翻訳も済んでいることも学んでいたため、別段驚きはしなかった。こうして気持ちがなんとなく分かるのも、そのためだろう。
「あ、あのー……こまってること、あったら、いってほしいの」
アイラクはディッグたちに歩み寄り、声を掛ける。その惑星の困りごとを解決してやるのも、任務の一端だろうと判断した、のだが……。
「キシャアアアアアッ!」
「あわっ!?ご、ごめんなさい!」
ディッグたちは敵意を剥き出しにしながらアイラクに襲い掛かってきたのだ。アイラクはディッグたちの突進を躱しながら、ディッグたちの中に淀みのようなものも感じ取った。恐らくダーカー因子だろう。凶暴化しているのだと判断し、仕方なくディッグたちと戦うことにした。
まだ重篤でもなさそうなため、加減をして気絶させるだけにとどめ、なんとかディッグたちを鎮圧し、ごろりと転がる彼等を見下ろした。
「かわいそうだけど……ごめんなさい」
ディッグたちに頭を下げた後、アイラクはさらに奥へと進んでいった。
道中でも様々な龍族に出会ったが、その殆どが明らかに苛立っていたり、侵食が進みすぎて完全に凶暴化してしまっている者ばかりだった。ディッグたちと同じように何かを探す様子の龍族もいたが、彼等はきっと自分たちに害を成すダーカーたちを始末すべく警戒していたのだろう。アークスであるアイラクを襲ってきたのは、ダーカー因子の影響で外敵の区別がつかなくなっていたとも考えられた。
「みんな、いらいらしてるの。かわいそうなの……」
遠目に見える龍族たちを見回しながら歩いていると、突然岩陰から飛び出してきた人物とぶつかって後ろに転倒した。
「いたっ!」
「おっと済まない。怪我はないかね?」
その人物は素早くアイラクに手を差し伸べ、起こしてやった。30代くらいだろうか、眼鏡をかけた、少しクールな印象の女性だった。
「だ、だいじょうぶ、です……。あなたも、アークス……?」
「いや、アークスの資格を持ったしがない研究員だよ。龍族の調査に来ていてね」
「そう、なの……」
「怪我が無いようなら、私はもう行かせてもらうよ。うるさい助手に見つかる前に調査を済ませたいのでな」
「あっ、ま、まって、」
アイラクは早口で去っていこうとする女性を呼び止めた。
「きをつけて、ね、りゅうぞくさん、みんな、ダーカーをさがしてたり、いらいらしてるみたいだから……」
「……君、今何だって?」
「えっ?だ、だから、りゅうぞくさん、みんないらいらして……」
「キミは会話無くして龍族の感情を読み取れるというのかい?」
「な、なんとなくだけど、たぶん……?みんな、そうじゃ、ないの?」
踵を返していたはずの女性が突然振り返り、アイラクに顔を近付けた。アイラクはあまりの勢いに思わず後退る。
「……キミ、任務が終わったら一度私の所に来てくれたまえ。ショップエリアの広場前だ。分かるな?」
「へ!?は、はい、わかるの!」
「宜しい。では、また後程な」
そう言って、女性は足早に奥へと進んでいった。一体何だったのだろう、と、アイラクはしばらく呆然としながら背中を見送っていた。
マップ上ではエリア2とされる場所へ辿り着くと、先程のエリアでは見られなかったダーカーも出現し始めていた。ダガンの群れが度々アイラクにも襲い掛かってくるが、ほぼ問題なく蹴散らし、どんどん奥へと進んでいく。
しばらくすると、龍族とダーカーが争っている場面に出くわした。ダガンに加え、カルターゴやエル・アーダまで龍族に襲い掛かっており、見るからにダーカーが優勢だった。
「わたしも、てつだうの!」
アイラクは龍族とダーカーの間に割って入り、まずはダガンの群れから次々と蹴り潰していった。そして、カルターゴの背後に回りグランヴェイヴでコアを狙う。連続の蹴撃を受け、カルターゴも身体を霧散させた。
「あと、すこし……、っ!?」
次なる標的、エル・アーダに狙いを定めたと同時に、背中に衝撃を受けて思わずふらつく。振り向くと、なんと龍族たちがアイラクに向けて刃を振るっていたのだ。咄嗟にレスタで傷を塞ぎ、龍族たちの間合いから離脱した。
「そ、そんな……わたし、てきじゃ、ないの!」
この龍族たちも、ダーカー因子の影響を受けて龍族以外の者を見境なく襲うようになっていたのだ。ダーカーと龍族の総攻撃を受けることになったアイラクは、多勢に無勢で一瞬にして窮地に立たされた。
「ど、どうし、よう……」
安易に龍族に攻撃できず、ダーカーと戦っているとその隙に龍族たちに攻撃される。これを繰り返し、アイラクは段々疲弊していく。とうとう壁際に追い詰められ、どうしようもなくなってしまったときーー
「おおい!大丈夫か!?」
龍族とダーカーの群れの向こうから、馴染みのある声が聞こえ、その直後、バレットボウのフォトンアーツ トレンシャルアロウが龍族共々ダーカーを貫いた。
「あっ……」
倒れ伏す龍族たちを悲しそうな目で見下ろす。そこへすぐに、群れを屠った者ーーキオが駆け寄ってきた。後ろからは、ルーとテトラもついてきている。
「危なかったな。しかしどうしてあんな状況になってたんだ?」
「そーよ。あんたならモーメントゲイルとかで纏めて蹴散らせるでしょうに」
「ど、どこか具合悪くて調子出せなかった、とか……?」
3人はアイラクに問いただす。理由はそのどれでもなかった。
「りゅうぞくさんが、ダーカーにおそわれてたから、たすけたくて……。でも、そしたら、りゅうぞくさんも、おそってきて……」
「成程なあ。まあ龍族を倒したくない気持ちも分かるけど、自分が死にそうだったら自分の身を守ること考えろよ?」
「う、うん……」
もっともな指摘を受け、項垂れるアイラク。キオは「まあ元気出せって!」と慰め、アイラクをパーティに引き入れた。これより先へは、キオたちと進むことになったのだった。
最深部へ辿り着くと、そこにはこの一帯の主であろうヴォル・ドラゴンが鎮座していた。辿り着いた4人を静かに見つめている。
「なんだこいつ、襲ってこないのか?」
「……うん、このりゅうぞくさんは、いらいらしてないの。でも、すこし、ダーカーいんしは、かんじるの……」
「何、あんた龍族の気持ちが分かるわけ?」
「なんとなく、だけど……。あれ、みんな、そうじゃないの?」
「言葉は通じるけど、感情とか細かな所までは、会話なしじゃ無理かなあ……」
「そうなの……?」
共通の能力だと思っていたが、どうやら違うらしい。しかし、とにかくヴォル・ドラゴンには戦意が無いということで、オペレーターに連絡を取り、キャンプシップ行きのテレポーターを転送してもらった。
テレポーターへ歩いていく4人を、相変わらず静観していたヴォル・ドラゴン。アイラクは彼の視線が気になり、ずっと目を合わせていた。
(かなしいの?)
何かを訴えるような感情が流れ込んできたが、その真意を探る前にテレポーターに辿り着く。ヴォル・ドラゴンの視線を感じながら、4人はキャンプシップへと転送されていった。
「お疲れ様ーっと。それにしても、アイラクを助けられて良かった。次はあんなことになるなよ?」
「うん……ごめんなさい」
「それにしても、最後は拍子抜けだったわね。何あの腑抜けみたいなヴォル・ドラゴンは」
「腑抜けって言ったら失礼だよ……」
終了後の雑談を楽しみながら、アークスシップへ辿り着くのを待つ4人。
「あ、そうだ。この後みんなで晩飯行かないか?」
「お、いいじゃない。行きましょ!テトラのおごりね?」
「え、何で僕……!?」
「……あ、えと、わたしは、このあとやくそくがあって……」
「あれ、そうなのか。じゃあ4人揃ってはまた今度だな」
「あんた、私たち以外に知り合いいたの!?」
「そ、そんなこと言っちゃだめだよ……」
火山洞窟で出会った女性との約束を思い出し、アイラクはキオの誘いを断った。
アークスシップに帰還すると、キオたちはフランカ'sカフェへ、アイラクは女性が待つ広場前へと向かった。
「……あ」
示された場所で、女性はすでに待っていた。アイラクは小走りに女性に駆け寄り、声をかけた。
「あのっ、かざんどうくつで、やくそくした、」
「ああキミか!待っていたよ!」
「は、はひ!」
アイラクの言葉を遮って歓迎してきた女性の勢いに、思ってもいない声を上げる。女性は構わず、要件を早口で伝えた。
「キミに折り入ってお願いがあるんだ。依頼、と言った方が正しいかな?会ったときに言った通り、私は龍族の調査をしていてね。キミにその協力をしてもらいたいんだ」
「わ、わたし……?」
「ああ。龍族の感情を読み取れるキミの力をぜひとも借りたいんだ。報酬は弾むよ。どうだい?」
「んんー……」
依頼と言われてしまっては、無下にもできない。それに、なぜだか龍族たちを放っておけない気がして、アイラクは少し悩んだ末に首を縦に振った。
「わかったの。きょうりょく、するの」
「有難う。なら早速明日、私の調査に同行してもらいたい。明日以降も、他の任務の合間を縫ってで構わないからアムドゥスキアの調査をキミの方でも行ってくれると嬉しい」
「うん、わかったの」
約束を取り交わし、時間も指定してもらったところで、2人は別れようとした。
「おっと、まだ名を名乗っていなかったね。私はアキ。キミはアイラクくんだろう?データベースを先に見させてもらった」
「あわ、はい、アキさん。よろしくおねがいします、なの」
「こちらこそ宜しく頼むよ」
アイラクは、明日の調査のために早めにベッドに転がり込んだ。
(あさの、8じ……めざまし、かけるの)
今日のような寝坊をしないために、アイラクはアラームをかけ、眠りについた。
コメントをお書きください