【コラボSS】ニーウと銀:強き者とは

ニーウと、フレンドさん・チムメンのMA-SAさんのマイキャラ「銀」との交流SSです。

双方の設定を読んでいなければ不明な個所がある・ニーウの裏設定およびパラレル設定が含まれます。


 

PasteL*Gearのチームルーム。

今は殆どのメンバーが任務に出ており、閑散としていた。ここにいるのはただ1人、チームオーダーの報告をしにやってきたチームリーダー……銀のみだった。

 

「報告完了……チームの円滑な活動のためにも、俺も邁進しないとな」

 

そう言って、チームルームを後にしようとした。

 

「……?」

 

そこに、小さな来客が1人。銀を見るなり、それは駆け寄ってきた。

 

「いたいた!リーダーっ!」

「ニーウか。珍しいじゃないか。何か用か?」

 

アイラクの弟らしい彼。銀はアイラクから怖がられており、つられてニーウも銀に若干の苦手意識を持っていた。銀もそれは薄々感じ取っていたので、少し意外そうな顔をした。

 

「っと、その……ぼ、僕と鍛錬!!してほしいんだ!!」

「急だな。前まで尻尾を巻いて逃げていた筈だが」

「そ、それは言わないでよ!頼むよ、この通りだ。リーダーじゃなきゃ、ダメなんだ!」

「……」

 

銀を決死の表情で見上げるニーウ。その目が嘘偽りではないことを確信し、銀は肯定の意を示した。

 

「良いだろう。だが子どもだからと手加減はしない。肝に命じておけよ」

「そのつもりで来たんだよ。分かってる!」

 

そうして2人は、訓練用に設けられたVR空間へと向かおうとしたーーのだが。

 

「……」

「どうした、ニーウ」

「……VRじゃなくて、外がいい」

「ほう?」

「あ、リーダーがよければだけどさ!別にどっちでも……」

「いや、外にしよう。何か意図があるんだろう?」

「!あ、ありがと!」

 

ニーウに言われた通り、銀はクエストカウンターの係員に訳を説明してナベリウスの森林を鍛錬の地に選んだのであった。

 

 

 

 

 

ナベリウスの森林地区に降り立った2人は、ひらけた野原に出て、向き合っていた。

 

「……始める前に、お前にとってこれが何のための鍛錬か、答えろ」

「どうしても、勝ちたい奴がいるんだ。そいつに勝つために、リーダーにお願いしたのさ」

「では、なぜソレに勝ちたいのか?」

「あいつに勝たないと……アイラクを、守れないから。僕は今まで、何回もあいつに負けて、アイラクを傷付けた。だから、もう負けたくない。アイラクを傷付けさせない。そのために、勝つんだ」

「……そうか。なら」

 

銀は獲物であるダブルセイバーを抜き放ち、重く、鋭く、冷ややかな殺気をニーウに叩きつけた。

 

「お前の背後には、守るべき者ーーアイラクがいる。そのつもりで、俺を制してみせろ。勝ってみせろ。お前の後ろに、一歩も俺を通すんじゃねえぞ?」

「っ……、分かったッ!!」

 

銀の静かな覇気に負けず、ニーウもジェットブーツを駆り、フォトンを放出する。2人の命懸けの鍛錬が開始された。

 

先手は、銀。小手調べと言わんばかりの軽い連撃ーーしかし、銀のそれは常人のそれとは比べものにならない程に速く、鋭かった。

 

「このくらいっ……」

 

ニーウはそれらをジェットブーツで弾き、隙を作ろうと試みるが、銀は弾かれたそばからすぐさま刃を切り返し、攻撃させる隙を与えなかった。

 

「防いでるだけじゃ、俺は倒せねえぞ!」

「分かってる……!!これでっ!!」

 

ニーウはヴィントジーカーを放ち、銀のダブルセイバーを渾身の力で弾き返した。今度は銀の胴に隙を作ることに成功し、追撃を叩き込もうとした。しかしーー

 

「甘えよ」

 

弾き返された勢いを利用してニーウの追撃よりも速く身体を回転させ、振り返りざまにニーウの腹に切っ先を見舞う。

 

「っぐ……!!」

 

ニーウは直撃を受けたが、咄嗟に腹部にフォトンを集中させ、威力の軽減と治癒を行なった。地面に叩きつけられた衝撃で息が詰まるが、休んでいる暇はない。すぐに起き上がり、ニーウの背後を取ろうとする銀に向けて回し蹴りを放った。

 

「機転は効くようだな」

 

それを表情一つ変えずひらりと飛び退いて躱し、少し離れた地へ着地する。ニーウはその隙にめいいっぱいのフォトンを溜め、グランヴェイヴで銀へ突っ込んだ。

 

「はああああ!!!」

「がむしゃらじゃあ守れるもんも守れねえぞ!!」

 

それに対し、銀はダブルセイバーをニーウに向けて投擲。デッドリーアーチャーだ。

 

(避けたら、僕の後ろに……!)

 

自分の背には、守るべき者。これを避ければ、背後のその存在に直撃するだろう。ニーウは突進の勢いのまま、ダブルセイバーを蹴り返そうと脚を振るった。勢いを完全に殺すことはできず、ニーウは吹き飛ばされたが、ダブルセイバーを叩き落とすことに成功した。それを見届け、ニーウは一瞬安堵したーーその気の緩みを、銀が見逃そう筈もなかった。

 

「何気ぃ抜いてやがる!」

「はっ……、」

 

銀はダブルセイバーを素早く拾い上げ、間合いを詰めた。そしてダブルセイバーを一閃、ニーウを容赦なく斬りつけた。

 

「ぐあああああああ!!!」

 

ニーウは為すすべなく、傷を押さえながら地を転がった。

 

「その程度か?……そら、あと一歩でお前の背後だ」

 

銀がニーウを一瞥し、横を通り過ぎようとしたとき。

 

「……?」

 

何かが弾ける感触がし、飛び退る。銀がいた場所に、雷撃が落とされた。

 

「ゾンデか。バウンサーはテクニックも使えるからな、活用しない手はないーー」

 

銀は表情を変えなかったが、心中では先程放たれたゾンデに対する違和感を覚えていた。

 

(鮮やかな紫色をした雷撃だったな……それに、得体の知れない力も感じた)

 

そうしている間に、ニーウは傷にレスタをかけてゆらりと立ち上がった。銀は再びダブルセイバーを構える。

 

「まあ、良い。続きを始めようじゃねえか」

「はあっ、はあっ……は、ハ、そうだね」

 

そして、また蹴撃と刃の死闘が繰り広げられた。

 

(さっきまでより重さも速さも上がってやがるな。だが)

 

かのゾンデに続き、ニーウの攻勢にも違和感を覚える銀。

 

(蹴りの軌道がブレまくってる。何かに迷ってんのか)

 

その乱れた軌道の狭間へ、銀の刃が肉迫する。ニーウはギリギリで回避し、渾身のヴィントジーカーを放った。

 

「たあああああああ!!!」

 

が、それは銀を捉えるに至らず、空を切る。その大きな隙へ、再びダブルセイバーの一撃が叩き込まれた。ニーウは派手に吹き飛び、再び地に伏すことを余儀なくされた。

 

「……戦いにおいて迷いは最大の敵だ。そんなもんは捨て置いて、守ることだけをーー」

 

銀は途中まで言いかけ、ニーウに生じた明確な異変を目の当たりにする。

 

「……はっ、あ、あハ、アハハッ……!……っ、!!」

 

一瞬覗いた、おぞましい表情と気配。それを抑え込むように、頭を抱えて蹲るニーウ。銀は、それを見て全てを察した。

 

「そうか。お前が勝ちたいと言っていたのは、『そいつ』だったんだな」

 

銀は、気配を覗かせた『それ』を捉え、『聴く』。

 

ーー酷いなあ。僕こそお前とアイラクを守ってやってるのに。

ーーどうして拒むの?ねえねえねえ。

ーーふふ、そうそう、僕が遊んであげるから!

ーーキャハハハハハハハッ!!

 

ひとしきり『聴き』終え、銀は思慮を巡らせた。

鍛錬の相手が銀でなければならなかったのは、命を懸けたギリギリの鍛錬をしてくれる存在だったから。

鍛錬の場所が外でなければならなかった理由は、命の保証のない、実際の戦いに近い状態でなければ目的は達せられなかったから。

窮地に追いやられることで、『それ』は顕現する。そしてこの鍛錬は、『それ』を抑え込むためのものであったのだ。

 

「……つまり、最初から俺には負けるつもりだったんだな。随分と舐められたもんだ」

 

銀は深く息を吸い、ニーウに叫んだ。

 

「ハナから負ける気で挑んでちゃ、俺はおろか『そいつ』にすら勝てる訳ねえんだよ!!『そいつ』に出てこられんのが嫌だったら、出てこさせないように強くなれ!!分かってんのかッ!!」

 

怒り、ではなく、その叫びには諭すような、後押しするような、強かな熱が込められていた。

ニーウはびく、と震え、頭を抱えたままゆっくりと顔を上げる。

 

「……は、僕、は、」

ーーお前は僕に従うの

「っ、あは、嫌だ、嫌だ……」

 

銀はあえて、それ以上ニーウに言葉をかけることはなかった。これは、ニーウ自身の戦いーー手を出す謂れはないと、判断してのことだった。

 

「……、さい、うるさい、うるさいうるさいッ!!僕は、お前の力なんか、借りなくたって……守れる……!!」

 

声にならない叫びをあげ、フォトンを放つ。光と闇をはらんだフォトンは互いに拮抗しーー最後は、光が制した。

 

ーーつまんないの

 

押し止められた『それ』は、消え入る寸前に銀に意識を向けた。

 

ーー今度は絶対、僕と遊ぼうね?ふふ、ふふふ……

 

「遊ばねえよ。2度と出てさせねえようにしてやる」

 

闇は完全に消え失せ、抑え込むことに成功したニーウは荒く息をつきながらへたり込んでいた。銀は歩み寄り、見下ろす。気付いたニーウが、恐る恐る銀を見上げた。

 

「……その……僕……、ごめん、間違ってた、よ」

「まったくだ。俺を出汁に使うとは良い度胸じゃねえか。ーーだが、見事に抑え込めたことは褒めてやる。十分『あれ』に勝てる見込みはあるってことだからな」

「!!」

 

感極まり、ニーウは瞳に大粒の涙を湛えた。銀はそれに構うことなく、ダブルセイバーをニーウに突き付けた。

 

「泣いてる場合じゃねえぞ。ーー強くなんだろ。続きを始めるぞ」

「っ、ーーうん!!」

 

ニーウは涙をめちゃくちゃに拭い、ジェットブーツを構え、再び銀と合間見えた。

 

「今度は、負けない……!」

「ふん、上等」

 

 

 

 

 

 

その日の夜、メディカルセンターにはぼろぼろになって担ぎ込まれ手当を受けるニーウと、それを心配して泣き出すアイラク、そしてその様子を無言で見つめる銀がいた。

 

「またひとつ、アイラクに嫌われちまったかもなあ」

 

だが、致し方ないこと。元よりこれはニーウが望んだ末の結末なのだから。

 

(……しかし、あれは何だったんだか)

 

ニーウが勝ちたいと言っていた、『あれ』。二重人格にしては説明のつかない得体の知れない力を纏ったその存在の正体は、分からず仕舞いだった。

 

「まあ、何であろうが構わねえけどな」

 

ニーウの勝つべき相手。それだけで十分。

そう思いなおし、再びニーウとアイラクへ視線を向ける。一瞬アイラクと目が合い、すぐにあちらから逸らされてしまった。

 

「……今度、2人誘ってカレーだな」

 

そう呟き、銀はメディカルセンターを後にした。