【コラボSS】アイラクと銀:束の間の休日

アイラクと、フレンドさん・チムメンのMA-SAさんのマイキャラ「銀」との交流SSです。

この話は、フレンドさん・チムメンのみーちたさんが描いてくださったイラストをもとに書いています。感謝!

 


 

 

PasteL*Gearのチームルームの一角。そこには数枚の紙屑と、長文が書き連ねられた文書とにらめっこする人影があった。

 

「どうしたもんかな……」

 

チームや自分の任務の報告書を書くこともある銀。今回はどう報告したものか分からない、厄介な任務の報告だった。

他の報告書も並行し、かれこれ数時間。頭を悩ませ続けるあまり、何度か彼の様子を見にやって来ていた存在に気づいていなかった。

 

「リーダー、だいじょうぶ、かな……」

 

その存在、アイラクは壁からひょっこり顔を出し、銀の様子を心配そうに見ていた。実はこれが何度目かの様子見だったが、今回は心配が最高潮に達し、何か手伝えることはないかと思案し始めた。

 

「ほーこくしょ、は、むずかしくて、わかんないし……。あ!」

 

何かを思い立ち、壁から出ていき銀のもとへと駆け寄った。

 

「リーダー!」

「ん?ああ、アイラクか。何か用か?」

 

相変わらず頭を抱えたまま振り向く銀。アイラクはにこっと笑って言った。

 

「リーダー、おひる、カレーいこ!なの!」

「?お前から誘うなんて珍し……」

 

銀は、言いかけてとどまる。

自分の目の前に広がる惨状。報告書と、丸めた紙。そして、どこか心配そうなアイラクの表情……。

 

(そういうことか……気い遣わせちまってるな。けど無下にもできねえか)

 

自分を心配して、気晴らしに連れて行こうとしてくれているのだと気付き、銀もふっと微笑んだ。

 

「ああ、行こうか」

「!うんっ!いこいこっ!」

 

アイラクはますます笑顔に花を咲かせた。昼まではまだ時間があるので、アイラクは銀の作業を隣で眺めながら大人しく待っていた。

 

 

 

 

 

「かれー!かれー!」

「……半分は自分が食いたかっただけだな、こりゃ」

「?」

「いや、なんでもない」

 

はしゃぐアイラクの手を取り、歩幅を合わせて歩く銀。アイラクはスキップ混じりで飛び跳ねていた。

しばらく市街地を散策していると、スパイスの香ばしい香りを漂わせる店を発見した。銀がその店を指差すなり、アイラクは銀の手を引いて走り出す。

 

「いいにおいなのー!おなかすいたっ!」

「分かった分かった、急に走り出したら危ないだろ」

 

銀は小走りでアイラクに続き、店へと入っていった。

 

 

 

 

店内のテーブル席で向かい合い、カレーを頬張る2人。アイラクは口一杯になりながら、しきりに感想を連呼していた。

 

「おいひいっ!おいひいの!」

「口に入れたまま喋るもんじゃないぞ。ほら」

 

銀はやれやれ、といった様子で備え付けのおしぼりでアイラクの口の周りを拭いてやった。アイラクは素直に首を縦に振って、しばらくの間カレーを飲み込むのに時間を費やしていた。

 

(なんだかなあ……)

 

結局のところ、アイラクに振り回されたりこうして世話を焼いたりなど、疲れることには変わりないな、と銀は思った。しかし、別段それが嫌な訳でもない。

 

(子どもの相手ってのは慣れないが、たまにはいいか)

 

確かに気晴らしにはなる。アイラクがどこまで考えているかは分からないが、彼女なりの気遣いにもうしばらく甘えることにしたのだった。

 

「リーダーも、おいしい?」

「俺は食っても美味くないぞ?」

「そ、そうじゃなくて!カレーが、おいしいか、きいたの!」

「分かってる、冗談だよ。ここのは美味い、が……」

「が?」

「フィオの作るやつには敵わねえな」

「うん、フィオおねえちゃんのカレーも、すっごくおいしいの!」

「アイラクはどっちの方が美味いと思う?」

「え!?え、えっと……えっとお……」

「……ふ、悪い悪い。どっちも美味しいんだよな」

「!り、リーダーのいじわる!なの!」

「ごめんごめん……カレーおかわりしていいから落ち着け、な?」

 

いつの間にか会話が弾み、銀の表情も柔らかくなっていく。アイラクも銀にからかわれながらも、嬉しげだった。

 

(リーダー、たのしそうなの。よかったの!)

 

アイラクは、連れ出した甲斐があった、とさらに満足げに表情を緩め、運ばれてきたおかわりのカレーを食べ始めたのだった。

 

 

 

 

食事が済み、2人はカレー屋を後にした。

その後も、気を良くしたアイラクが半ば無理矢理に、銀を市街地散策へ誘ったのだった。

 

「ふんふーん!」

「俺よりも楽しそうだな、お前」

「はっ!?リーダー、たのしく、ないの……?」

「そういうつもりじゃないさ。お前が楽しそうだと何故だかこっちまで楽しくなってきちまうなって、な」

「!えへへ……!わたしも、リーダーがたのしいと、たのしいの!」

 

しばらく談笑しながら街を歩いていると、ビルに備えられた巨大モニターの前に人だかりが出来ているのを発見した。気になったアイラクが銀の手を取って人だかりの中へ突っ込んでいこうとするが、人の壁はなかなか隙間を見せてくれない。

 

「むうー、がめんが、みえないのー!」

 

むくれながら飛び跳ねるアイラク。それを見た銀は少し思案した後、アイラクを両手で持ち上げ、足を肩に掛けさせるようにして乗せてやった。

 

「あわああ!?」

「肩車だよ。見えねえんだろ?」

「!リーダー……!!ありがとう!なの!」

「って、こら動くな。落ちるぞ!」

 

嬉しさのあまり肩の上ではしゃぐアイラクをなんとか制し、銀も巨大モニターに目を向けた。

 

「みんなーっ!今日は見に来てくれてありがとーっ!テレビの前のみんなも、盛り上がっていこーねー!」

 

巨大モニターに映し出されたのは、クーナのライブ中継だった。ここからは少し遠いが、アリーナで今まさにライブを行なっている最中らしい。ここに居るのは、アイラクと銀のように偶然居合わせた者と、ライブの抽選からあぶれた者だろう。しかし、どんな経緯で集まっていようと、皆はモニターの前で同じように盛り上がりを見せていた。曲が始まると、掛け声や歓声が上がり始めた。

 

「わあーっ!やっぱり、クーナはかっこいいのー!」

「こら、暴れるなっつってるだろ!」

「はっ!!ご、ごめんなさい!しずかに、おうえんするの!」

「まったく……」

 

銀は特に表情を変えることなくモニターを眺めていたが、肩の上で喜ぶアイラクの声を聞きながら、いつの間にかうっすら笑みが溢れていた。自覚は無かったが、このときも確かに楽しんでいたのだった。

 

 

 

「今日も応援してくれてありがとーっ!この調子で次のシップでも頑張って来ちゃうからね!それじゃ、まったねー!」

 

ライブはアンコールまで続き、巨大モニター前は大盛況のままお開きとなった。アイラクと銀も、人の波に揉まれながら帰路へとつくのだった。

 

「えへへ、たのしかったのー!」

「ああ、そうだな。有難うな、良い気晴らしになった」

「!うんっ、どういたしましてなのー!」

 

チームルームに帰る頃には日が沈むだろう。銀はかすかに残りの報告書のことが頭をよぎったが、せっかくアイラクが楽しませてくれたのを無下にはしまいと頭の片隅に追いやった。

 

(ま、明日にでもゆっくりやろう)

 

帰路の間も、2人の間には笑顔が絶えなかった。

 

 

 

 

その日の夜。銀はチームルーム……ではなく、マイルームへ戻っていた。1人の気持ち良さそうに眠る少女とともに。

 

「まったく……帰るなりこれだ」

 

チームルームに着いたとき、疲れて一足早く眠りこけてしまったアイラク。アイラクのマイルームまで一度は背負っていったものの、ニーウもルヤンも任務で留守らしく、鍵がかかっていた。そしてとりあえず、銀は自分の部屋のソファーにアイラクを寝かせているのだが。

 

「随分深く眠っちまってるな……。起きんのか、これ」

 

一応、ニーウとルヤンに連絡はしておこう。そう思い立ち、アイラクの眠るソファーの傍に寄りかかりながら端末からメッセージを送った。その後しばらくアイラクの様子を窺っていたが、知らぬ間に銀も深い眠りに落ちていたのだった。