アイラクと、フレンドさんの白助さんのマイキャラ「赫翼(レミー/梅レミさん)」との交流SSです。
双方の設定を読んでいないと不明な内容が含まれる・アイラクの裏設定が少し含まれます。
(妙な匂いがする)
レミーは、今日も腹を満たすために誰かの任務に紛れ込もうと画策していた。
ちょうど任務を受けるアークスはいないか、とロビー内を散策していると、1人クエストカウンターを後にする少女を発見した。その少女からは、他のアークスとは違う、異質な匂いを感じた。
(へんなの。どんな味がするんだろう)
その異質さに、興味を抱いた。今まで感じたことのない気配の獲物の味が気になったのだ。
とはいえ、メインは腹を満たすこと。エネミーを喰らいつつ、少し味見でもしよう。そう思って、レミーは彼女の後をついていった。
キャンプシップに上手く侵入することができた。どうやら向かう先はハルコタンらしい。
(……。……待てない)
空腹も手伝って、彼女の味見をしたい衝動は最高潮に達していた。いつの間にか気配を消す気も無くし、ハルコタンへの到着をぼーっと待つ彼女の前に現れた。
「やあ」
「えっ!?……ええ!?あの、えっと、いつのまに」
「最初からさ」
「えっ、えと……もしかして、にんむ、いっしょにいってくれるの……?」
レミーには彼女と行動を共にする気は無かった。返事は返さず、おもむろに彼女の腕を掴んで引き寄せた。動揺する彼女を余所に、まるで林檎でも齧るかのようにその腕に噛み付いた。
「いっ……!い、いたいっ!」
レミーは、構わず牙を食い込ませ、噛み付いた部分の肉を剥がそうとした。が、そのとき、不意に何かが弾けるような衝撃を感じ、慌てて彼女を突き飛ばした。腕にはしっかり齧り付いたままだったので、結果的に腕の肉の一部を剥がすことができた。
(あっぶないなあ)
引き千切った肉を咀嚼しつつ、今起きたことを振り返る。どうやら、激痛による衝撃で彼女が放電したらしい。その彼女は、肉を削がれた方の腕を押さえてへたり込んでいた。
幸い直撃は避けられたので、すぐに思考を肉の賞味へと切り替えた。
(……微かに龍の味がする。でも、それだけじゃない。変な味だ)
味としては、可もなく不可もなし。衝撃はあれど、美味いかと言われればそうでもない。
暫し不思議な味を堪能し、飲み込んだ。ひとつため息をつき、彼女の方を見る。やはりと言うべきか、レミーを見て震えていた。
「その程度の傷で、情けない奴だねおま……」
「ご、ごめんなさいっ!!」
レミーが最後まで言い終わる前に、彼女がへたり込んだまま勢いよく頭を下げた。思わぬ反応に、レミーは「は?」と無意識に声を上げる。
「わたし、おどろいたり、きもちがきゅうにたかくなったりすると、フォトンが、ぼうはつしちゃう、から……。だ、だいじょう、ぶ?」
「……そっち?」
てっきり、自分を怖がって震えているのかと思っていたレミーは、呆気に取られて素っ頓狂な反応をした。
「直撃してないし大丈夫だよ。それに食らったところで大したことない」
「な、なら、よかったの……」
彼女は心底ホッとして項垂れた。
危害を加えてきた相手の心配をするなんてとんだお人好しだ。そう思いながら、レミーは彼女の横をすたすたと通り過ぎる。
「ボクはお前の味見をしたかっただけだから。もう用は無いよ。じゃあね」
振り返りもせずに、レミーは先にハルコタンへと降りて行った。
「あ……」
彼女はその背中を見送ったあと、ゆっくりと立ち上がり、レミーを追った。
ハルコタンのエネミーもとい黒の民の殆どは、アークスの大の大人の3倍はあろうかという体躯をしている。そのため、腹を満たすには格好の場所だった。
一帯のエネミーを食べ終えると、ひとつため息をついた。
「……おいお前」
「はっ、はいっ!!」
そう言って振り返った方向には、建物の陰から半分顔を出す彼女がいた。レミーは渋々といった表情で彼女に向かって歩き出した。
「何でついてきてるの?もう用は無いって言った筈だけど?」
「あっ、その……」
「ハッキリしないと次は本気で食べるよ」
「!!あの、にんむ、いっしょにいって、いい……?」
脅された勢いで言い出したはいいものの、声の大きさは竜頭蛇尾だった。
(何でこんな面倒なことに……)
レミーはあからさまに不満な表情を浮かべたが、俯いている彼女からは見えない。
このまま置いていっても、この様子だとついてくるだろう。しばらく考えたが、それすら面倒になり、
「……足手纏いにはなるなよ」
と、肯定の意を示した。彼女はぱっと顔を上げ、満面の笑みで礼を言った。
「あ、ありがとうっ!」
この言葉と同時に、突如彼女から電撃が放たれた。
「なっ!!こら!!やめろ馬鹿!!」
「!!ま、また……!ごめんなさいっ!!」
「いいから落ち着け!!それ以上暴発させたら殺すよ!!」
動く感情の方向は、マイナスだろうがプラスだろうが放電してしまうらしい。レミーは、極力距離を置こう、と、心から思ったのだった。
任務が終了し、2人はキャンプシップへ帰還した。
「ったく。どうりで1人な訳だ。ボクじゃなかったら避けきれずに痺れた隙にあの世行きだ」
「ご、ごめんなさい……」
アイラクのフォトンの暴発は、戦闘中にも何度か起きていた。攻撃の際に気合を入れたとき、攻撃を受けたとき、敵を倒せて喜んだとき……。アイラクが何故1人で任務へ赴いているのか、得心したのだった。
「まーいいや。ボクはもう行くから。じゃあね」
「あっ、ま、まって!」
「まだ何かあるの?」
「なまえ、まだきいてないの」
「はあ?……レミーだよ。周りからは梅とか呼ばれてるけど」
「れみー、うめ……うめ!よろしくね、うめ!わたしは、アイラクっていうの!」
「何を宜しくするんだよ……。じゃあ今度こそ行くから」
レミーは素っ気なく返し、先にキャンプシップを後にした。残されたアイラクは、冷淡な態度を取られたにも関わらず、少し嬉しそうだった。
数日後。
「うめ!うめっ!」
「……お前」
アイラクが、レミーを見るなりとてとてと駆け寄ってきた。
「うめ、きょうも、にんむいっしょにいきたい!」
「は?何でボクが」
「だって、うめはわたしにこえをかけてくれたから……。フォトンがうまくつかえなくなってから、はじめてなの。それに、こないだ、にんむについてってくれたの。うめは、いいひとなの!」
レミーは、本気で面倒なことになった、と思った。
味見したさに1人のところへ声をかけ、実際に齧り付いたにも関わらず、気まぐれで任務を共にしたらそれが余程嬉しかったのか、懐かれてしまったのだった。
「まさかフォトンを暴発させるような奴だなんて思わなかったからだよ。あと味見したかっただけって言ったろ」
「でも、そのあと、にんむについてきてくれたの」
「あれは気まぐれ。断ってもついてきそうだったしそれはそれで面倒だっただけだ。お前が思ってるようないい人なんかじゃないよ、ボクは」
「でも……」
これでは埒が明きそうにない。レミーはしばらく考えこむ。
放電は今のところ戦闘中は避けきれているし、万一食らったところでレミーにはそれほど痛くはない。戦闘能力も差し支えはなさそうだし、付いてこられても別段支障も脅威もないだろう。やたら付きまとわれるのは面倒だが……
「……勝手にしたら」
「!ありがとうっ!」
「あっこら喜ぶなっ……」
アイラクがぱっと笑顔を咲かせた瞬間、電撃が放たれた。レミーは直撃する前に距離を取る。
「……次やったら唐揚げにしてやるからな」
「ご、ごめんなさいい……」
この日を境に、レミーは毎日のようにアイラクに声を掛けられるようになった。あまりにもついてくるので、いざというときの非常食にでもしよう、と考えたのだった。
おまけ
アイラクに気に入られてから数日後、レミーはなんとなくこれまで抱いてきた素朴な疑問をぶつけてみたくなった。
「お前、ボクが齧ったことにも敵を食べてたことにも何も言わなかったね。何で?」
「え、そういうひとだって、おもったから、だけど……」
「……そ」
レミーはアークスとして活動している訳でもないし、能力や行動も明らかに異質である。恐れられるか、疑念を抱かれるのが普通だろう。しかしアイラクは、これがレミーという者の特徴だ、くらいの捉え方をしていたのだった。
「怖くもないんだ」
「ちょっとは、こわいけど、それよりもうれしいから、いいの。それに、」
「それに?」
「……や、やっぱりいいの」
「ほんとハッキリしない奴だな、お前」
レミーは回答が聞けたので、それ以上は追求する気はなかった。会話はそこで終わり、暫し無言のまま任務へ赴くのであった。
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