アイラクと、フレンドさん・チムメンのネフェロさんのマイキャラ「エスピナ」との交流SSです。
アークスシップ・ショップエリア。
多くのアークスで賑わうその片隅、階段下で数名のアークスたちが1人の少女を囲んでいた。
「だから、その……あの時は悪かった。もう除け者にしたりなんかしないからさ」
「最近は暴発の話聞かないし、また一緒に任務行けるかなって思ったのよ」
「あの頃みたいにまた仲良くしたいんだ」
口々に、少女への謝罪や懇願を投げかけるそのアークスたちが囲むのは。
「……そんなこと、いわれても……」
紫色に身を包んだアークス、アイラクだ。
アイラクは困惑と、どこか怯えるような表情で言葉に窮していた。側から見れば少女を寄ってたかって言葉責めしているようにしか見えないが、人通りの少ない階段下では誰の目にも止まる筈もなく、このやり取りが続けられていたのだった。
そんな場所へ、偶然にも通りすがる人影があった。
紫色の鋭利なパーツが特徴的なその女性キャストは、ふと階段下へ視線をやる。
「?あれは……アイラクちゃん?」
殆ど知らないアークスだが、取り囲まれている1人のみ、よく見知った顔だった。何だか分からないが、困り果てている彼女を放っておく訳にはいかない。そう思い、階段下の一団に向けて歩み出した。
「……あなた達、」
「!?なっ、何か用、かよ……!?」
「!エスピナおねえちゃん……!」
女性キャストーーエスピナは、アイラクを取り囲むアークスたちの背後に立つと、静かな口調で声をかけた。
「1人を寄ってたかって、というのはあまり感心できませんわ……。困っている様ですし、一度退いてあげては如何でしょう……」
エスピナの言葉に、アイラクを取り囲んでいたアークスたちはたじろぐ。そして顔を見合わせ、エスピナとアイラクに向けて頭を下げた。
「……分かった、俺たちが悪かった。今日はここまでにしておく」
「でも、ねえ、アイラク。またお話しましょうね?」
そうして、アークスの一団はどこかへ走り去っていった。ようやく解放されたアイラクは、はあ、とため息をついてうなだれた。
「すぐに立ち去ってくださって良かったわ……。大丈夫?」
「エスピナおねえちゃん……ありがとう。だいじょうぶなの」
アイラクは大丈夫と言いつつ、エスピナにぴったりくっついて俯いていた。エスピナはそんなアイラクを慰めるように肩を抱いてやった。
「それにしても、あの方達は一体何だったのでしょう?」
「……んん……」
「あ、いいえ、少し気になっただけですの。無理に話さなくても構いませんわ」
「ううん、そんなにふかい、わけは、ないんだけど……。あのひとたちは、2ねんまえに、よくいっしょににんむに、いってたひとたちなの」
「そうでしたの……。行ってた、ということは、今は?」
「いまは、いってないの」
「喧嘩でもしましたの?」
「けんか……は、してないと、おもうの……」
複雑な話になりそうだ。
腰を落ち着けるため、エスピナはアイラクをフランカカフェへと誘った。
「かれー……!かれーなの!」
「ふふ、本当に好きなんですわね」
カフェのテラス席に陣取り、アイラクは早速カレーを注文した。エスピナは紅茶を優雅に口に運んでいる。
アイラクはしばらくカレーに夢中になっていたが、話をしに来たのだということを思い出して、慌てて顔を上げた。
「はっ!!ご、ごめんなさい!かれーが、おいしくて……」
「……ふふ、構いませんわ」
アイラクの様子と言葉に思わず笑みが零れるエスピナ。アイラクは変わらず慌ただしい様子で口の周りを拭いていた。
一息つくと、アイラクの方から口を開いた。
「えっとね、2ねんまえのあるひまでは、あのひとたちとにんむに、いってたんだけど……」
2年前。
彼等とはいつも一緒に任務に赴いていたが、アイラクに降りかかったとある事件を境に彼等はおろか、多くのアークスたちがアイラクのもとから離れていったのだった。
その事件以降、アイラクはフォトンの制御が覚束なくなり、任務中に何度もテクニックを暴発させてしまっていた。故に危険視され、段々任務に誘われなくなり、ついに一番仲が良かった彼等も離れていってしまったのだ。
「……でも、いまは、ちゃんとフォトン、つかえるようになってるの。だから、もういちどこえをかけてきたの。それが、さっきの……」
「……それは随分、身勝手な方たちですわね」
「うんー……どうすればいいか、わからなかったの」
エスピナは話を聞きながら、不快感を覚えていた。
信じていた人たちから裏切られることの絶望、そして掌を返してきた末の結果を、エスピナは知っている。少し状況は違うものの、自らの体験と通ずるモノを感じ取ったのだった。
「そんな方たちの手を取る必要はありませんわ。自分たちから見捨てておいて、また仲良くしましょうだなんて……都合が良いにも程があるわ」
「う、うん……」
「はっ、ごめんなさい。少しカッとなってしまいましたわ。……そもそも、あなたは『PasteL*Gear』の一員。彼等と関わる理由も、ありませんわ」
彼等の手を取って欲しくない。その一心での言葉選びだが、どうにも棘のある言い方になってしまう。アイラクを萎縮させてしまってはいないだろうか、とアイラクの表情を窺うが、その心配は杞憂な様だった。
「……そうだね、わたし、ぱすてるぎあに、いるんだもんね。たよれるひと、もういっぱい、いるんだもんね」
PasteL*Gearの一員である、という言葉から、迷いの解決の糸口を導き出したらしいアイラクは、続けて言った。
「わたし、あのひとたちより、だいすきなひとたちと、いっしょがいいの。だから、つぎにあったら、『もうチームにはいってるから、さよなら』って、いうの!」
「ええ、それが良いと思いますわ」
「えへへ……おはなし、きいてくれて、ありがとう!エスピナおねえちゃんのおかげで、どうしたらいいかも、わかったの!」
「それは……何よりですわ」
エスピナには事を解決できる確信があって話を聞いていたつもりはなかったが、図らずも役に立てたことに喜びを感じていた。アイラクの笑顔につられて、エスピナもふわりと笑みをこぼしたのだった。
後日。
あの日と同じ階段下で、同じ様にアイラクとアークスの一団が話していた。
「チームに入ってても、俺たちと一緒に行けるっちゃ行けるだろ?」
「……」
再びかのアークスの一団に声をかけられたアイラクは、チームに入っているという旨を伝えたーーものの、なかなか引き退ってくれずまたしても返事に窮していた。否、窮している訳ではなく、本当の気持ちを伝えるのが怖かったのだ。
(でも……いわないと、おわらないし、いまはエスピナおねえちゃんも、みててくれてるから……)
密かに、エスピナはアークスの一団に悟られない距離から動向を見守っているのだ。何だかんだ不安なアイラクからの願いだった。
決心がついたアイラクは、思い切って自分の気持ちを訴えた。
「あなたたちとは、もう、いけないの。いっかいはなされたら、もうしんじられないの。だから、わたしは、だいすきなチームのみんなといたいの」
言いたい事を言い終え、俯く。少しの沈黙の後、アークスの一団は口を開いた。
「……分かった。当然のことだよな。……俺たち、お前に許してもらいたかっただけなのかもしれない。悪かった」
「ちょっと、せっかく仲直りしようって言ってるのにそれは無いんじゃないの?」
「落ち着きなって……僕らが完全に悪いだろ、これ」
「……もう。分かったわよ」
1人は納得のいかない様子だったが、他2人はアイラクの言い分を受け入れたのだった。
「もう、こんな真似はしないよ。新しいチームで頑張ってな」
アークスの一団はアイラクに背を向けて、立ち去っていった。アイラクは緊張の糸が切れ、先日よりも大きなため息をつきながら体ごと項垂れた。
「最後まで都合の良い人たちね……」
「エスピナおねえちゃん……、もういいの、あのひとたちとは、これでもうおわかれだと、おもうから。みててくれて、ありがとう」
「いいえ。アイラクちゃん、よく頑張りましたわね。……さあ、チームルームへ帰りましょう?」
「うんっ!」
2人は手を取りあい、ショップエリアを後にし、心から頼れる仲間たちが待つチームルームへと仲良く向かっていったのだった。
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