アイラクと、フレンドさん・チムメンのえくれあさんのマイキャラ「えくれあ」との交流SSです。
アークスシップ内の、とあるマイルーム。
紫色に囲まれたその部屋で、アイラクはファンシーラビットと戯れて遊んでいた。
「ニーウどっかいっちゃったし、ひまなのー」
ファンシーラビットにしがみ付いてつまらなさそうにゆらゆら揺れていると、バランスを崩して勢いよく転がる。そのままマイルームの扉の前まで転がっていき、停止。
「うー……」
目を回していると、何者かがマイルームに来訪してきたらしい。扉の向こうから声が聞こえた。
「アイラクさん。いらっしゃいますか?」
「……はっ!!い、いるの!いらっしゃいなの!」
「では、お邪魔し……、……何やってるんですか?」
マイルームを訪ねてきた者ーーえくれあは、ファンシーラビットの下敷きになってもがくアイラクを発見し、呆れ顔でアイラクの救助を行なった。
「たすかったの、ありがとう!」
「いえ……」
えくれあは、嬉しそうに笑うアイラクをしげしげと見つめた。
(本当に、幼いですね……)
任務では惜しみなく力を振るい、敵を撃破してきたアークスが、まさか巨大なぬいぐるみの下敷きになってもがいているなど誰も思いもしないだろう。いや、むしろこちらが本来の彼女か。そんなことを思いながら、しばらく沈黙していた。
「そういえばえくれあ、あそびにきたの?あそぼあそぼ!」
そう言って先程のファンシーラビットを覚束ない足取りで引っ張り出そうとするアイラクを、えくれあは慌てて制した。
「いえ、そうではなく。というかやめなさい、またひっくり返ったらどうするんですか」
「あれ、あそびにきたんじゃ、ないの?」
アイラクはファンシーラビットを手放し、再びえくれあの前に駆けてくる。えくれあの返答を待ち、じっと見つめた。
「今日は、あなたにジェットブーツの扱いを教えていただこうと思いまして。……せっかく父上からいただいた『可能性』、しっかり使いこなせねばなりませんしね」
「?」
「ああ、最後のは気にしないでください。教えて、いただけますか?」
「う、うん、でも、おしえるのは、あんまりとくいじゃないの……。ニーウのほうが、いいとおもうの」
「そのニーウさんにも尋ねてみたんですが、『アイラクの真似しただけだから分かんない』と言われまして……」
「なるほど、なの……」
かくして、アイラクはえくれあにジェットブーツの手ほどきをすることとなったのだった。
「よろしくおねがいします!なのー!」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
鍛錬の地に選んだのは、森林。新米アークスの訓練の地としても最適であるここは、鍛錬にはちょうど良い場所であった。
「それじゃあ、えっと……ど、どうしたら、いいかな!?」
「フォトンアーツについては粗方習得はしていますが、ジェットブーツそのものの特性、というべきでしょうか……その辺りをまだ、理解していないもので。実戦を交えて、覚えられればと」
「う、ううん……んー……?」
「……とりあえず、まずはいつも通り戦っているところを見せてください」
「!わかったのー!」
アイラクがこういうことは得意でないことは何となく分かっていたが、本当にからきしらしい。えくれあは、普段任務ではあまり集中して見れないアイラクの動きやジェットブーツの使い方を見てみることにした。
アイラクはまず、複数のスタンススキルを発動させた。普通、この手のスキルは2つしか併用できないはず。えくれあは疑問に思い、アイラクに尋ねた。
「アイラクさん、今発動させたのは?」
「えっと、ひゅーりーすたんす、えれみぇっ……エレメンタルスタンスと、スイッチストライク、なの!」
「……最初のはフューリースタンス、ですね。エレメンタルスタンスは確か、弱点属性で攻撃したときに力が発揮されるものでしたね。最後のスイッチストライクというのは……」
「えと、ジェットブーツは、ほうげきでつよさがきまるけど、スイッチストライクすると、ほうげきじゃなくて、じぶんのけるちからが、そのままちからになる、の!でも、そうしたらテクニックのちからが、さがるから、レスタとか、よわくなっちゃうから、かいふくが、よわく、よわく、……???」
アイラクは拙い語彙で必死に説明し、最終的に自分が何を言っているか分からなくなって頭を抱えた。
「アイラクさん、大丈夫です。ちゃんと伝わっています」
「ふあ!!ほ、ほんと!?よかったの!」
スイッチストライクは、本来法撃力依存のジェットブーツを打撃力で扱えるようにするスキル。その分テクニックの威力や効果は半減するが、打撃力に自信があればこれを使用しない手はない。これはスタンススキルと併用できるものらしい。
(これまでデュアルブレードを扱ってきましたし、スイッチストライクは必須ですね……覚えておきましょう)
2人はそのまま奥へ進み、現れたエネミーの前で足を止めた。原生種のガルフと、ダーカーのダガン。同時に姿を現したそれらに、アイラクが立ち向かう。
「……?」
スイッチストライクで威力が下がっている筈のテクニックを、ガルフに向かって放つアイラクに首を傾げるえくれあ。アイラクが放ったのは、ガルフの弱点である風属性のテクニック ザン。ガルフはそれをまともに食らうが、半減したその威力では致命傷にすらならない。
「やあっ!」
特に気にすることなく、アイラクはガルフの群れへグランヴェイヴで突っ込んだ。魔装脚には風のフォトンが纏い、その強烈な蹴撃を受けたガルフはことごとく地に倒れ伏していった。
続いて、ダガン。またしてもアイラクはテクニックを放つ。今度は光属性のグランツ。弱点属性とはいえ、やはり決め手にはならず、ダガンたちはアイラクに向けて襲いかかる。
「むだなのー!」
モーメントゲイルを放ち、派生技でダガンたちを引き寄せながら回転し、連続の蹴撃を見舞う。
「……あれ、先程までは風属性だったはず……」
魔装脚に纏うフォトンが、風属性から光属性に変わっていた。えくれあはダガンたちを一掃して戻ってくるアイラクに、これについても尋ねた。
「ジェットブーツの属性が変化していた様ですが、どういう仕組みなのですか?」
「んとね、ジェットブーツは、テクニックをためたときに、そのテクニックのぞくせいにかわるの!だから、てきによって、ぞくせいが、かえられるの!」
「なるほど……、だから攻撃前にテクニックを放った訳ですね。便利なものです」
「うん!べんりなのー!」
他の武器は少なくとも6本ーー属性分集めることが推奨されているが、ジェットブーツは属性保存の特性により1本でも済む。えくれあはこれまでの苦労を思い浮かべ、ジェットブーツの利便性に嘆息をついた。
(それに、1本ならば……父上から授かったこれで、すべての力を発揮できるということですね)
最も自分に馴染み、最も力を発揮でき、最も愛着のあるこのギクスカリナ。これをいわば良き相棒としてずっと戦いを共にしていけることに、ほのかな喜びを感じたのだった。
最深部に辿り着き、2人はこのあたり一帯の主であろうロックベアと対峙した。
「2体、いますね」
「そうなの。じゃあ、あっちはわたし、そっちはえくれあ、なの!」
「はい。……スキルはまだ習得していませんが、先程の属性保存を早速生かしてみるとしましょうか」
「がんばれっ、なのー!」
2人はそれぞれが担当するロックベアの方を向く。えくれあはまず、ロックベアの弱点属性である風のテクニックを溜め、放った。
「!……本当に、纏うフォトンの力が変化しましたね……これでっ!」
えくれあはグランヴェイヴでロックベアへひとっ飛びし、連続蹴りを顔面に放った。風のフォトンが弾け、ロックベアは思わず仰け反る。そこにフィニッシュの回し蹴りを叩き込み、ロックベアを大きく転倒させた。
「ふむ……やはり法撃依存の今では思った様に威力は出ませんか……、!」
ロックベアが起き上がりざまに拳を薙いできた。ギリギリで回避し、再びグランヴェイヴを放とうとした。そのとき。
「あわあああえくれあ!!よけて!よけてなのー!!」
「な、!?」
アイラクの叫び声で、咄嗟にロックベアから飛び退く。先程まで自分がいたそこに、アイラクがヴィントジーカーで吹っ飛ばしたらしいロックベアが突っ込んできた。そのままえくれあが戦っていたロックベアに激突し、2体がまとめて転倒した。
「……相変わらず、凄まじい力ですね……。小さな体のどこからこんな……」
「ご、ごめんなさい!じゃましちゃったの!あぶなかったの!!」
「ああ、いえ、気にしないでください」
えくれあは慌てて謝りに来るアイラクをなだめ、自分が対峙していたロックベアに目を向けた。アイラクが吹っ飛ばしたロックベアはヴィントジーカーで絶命したらしく、糸が切れた様に動かない。そんな同胞を押しのけ、ゆっくり立ち上がるロックベア。
「さあ、あなたも彼と同じ所へーー」
えくれあがロックベアにとどめを刺そうとしたとき、思わぬ乱入者がそれを阻んだ。
乱入者は、えくれあが対峙していたロックベアを鋭い爪で押さえつけ、噛み付き、貪り食う。
「あれは……ファングバンサー!?」
「でも、ようすが、おかしいの!」
よく見るとファングバンサーの首元には侵食核が。その影響で凶暴化し、見境なくロックベアを殺したのだろうと見当がついた。
「少し危険ですが……いきましょうか」
「もちろん!なの!」
2人は同時にグランヴェイヴで駆ける。アイラクは派生技でデバンドをかけ、その後モーメントゲイルでファングバンサーの顎を蹴り上げ派生技で脳天に蹴りを叩きつけつつ、シフタも発動。その恩恵を受けたえくれあは、渾身のグランヴェイヴでファングバンサーの前脚の爪を砕いた。
「!シフタのお陰ですね……アイラクさん!」
「わかってるの!」
よろめいたファングバンサーに、アイラクがヴィントジーカーを叩き込もうとフォトンを溜め始めた。しかしーー
「!!ま、まって、」
侵食の影響か、通常より立ち直りが早かった。フォトンを溜め切れないうちに、アイラクはファングバンサーの爪で吹き飛ばされた。
「きゃあ!!」
「アイラクさん!!」
地面に叩きつけられ動けないアイラクに追撃しようと迫るファングバンサー。動きを止めるべく、えくれあは駆け出した。グランヴェイヴを連続で叩き込むが、思う様に爪に当たらず、ファングバンサーは止まらない。
「止まれ……止まれえええっ!!!」
えくれあの叫びに呼応するかのように、魔装脚ーーギクスカリナに纏うフォトンが輝きを増した。それを爆発させ、凄まじい速度でファングバンサーを追い抜き、前へおどり出る。
「はあああああああッ!!!」
ファングバンサーの顔面に、全フォトンを凝縮した蹴撃が放たれた。突進に夢中で回避など眼中になかったファングバンサーは顔の側面を思い切りめりこませながら、わずかに身体を浮かせてその巨体を地面に投じた。
「……っ、アイラクさん、無事ですか?」
「だ、だいじょうぶ、なの……、いっ」
アイラクは強がって立ち上がろうとするものの、身体の痛みに耐え切れずその場にへたり込む。えくれあは、すぐにレスタをかけた。
「……これで、立てますか?」
「!ありがとうっ!もういたくないのっ!」
「それはよかっ、!!ちょっと、」
ぴょんと起き上がり、えくれあに飛び付くアイラク。あまりに嬉しそうなので離れろとも言えず、えくれあはなされるがままになっていた。
「あ!それと、さっきの!ヴィントジーカー、すごかったの!」
「……?さっきの、とは」
「ファングバンサーをたおした、あれ!かっこよかったの!」
「あれが、そう、だったんですか……?」
正確には、えくれあの想いに呼応して爆発的に高められたフォトンによる一撃だったのだが、その威力はヴィントジーカーに比肩していた。アイラクが見まごうのも無理はなかった。
「たすけてくれて、ありがとう!えくれあ、これでもうジェットブーツはかんぺきなのー!」
「そうですかね……?……まあ、それとは関係なく、今後も精進していきます。あと、こちらこそ色々と手ほどきしていただいて、有難うございます」
「いーの!またこまったら、いつでもいって!なの!」
こうして2人は鍛錬と森林探索を終え、キャンプシップへと帰還していった。
そのすぐ後、迎えに来たニーウに今任務のことを小一時間ほど問い質されたのはまた別の話であるーー。
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